34話
あれから約1週間。今日は文化祭の個人発表リハーサル日だ。あと1回、文化祭の前日にもリハーサル日はあるが、1回舞台で踊っておいた方が良いだろう、ということで体育館リハーサルに来た。
なお、リハーサルは観覧不可だ。体育館の周りには、私たちのライブを先んじて見ようとする人たちが、生徒会や風紀委員の人たちで引き剥がされている。⋯⋯何もかも申し訳ない⋯⋯。
「やっぱり、体育館の音響ってやりづらいね」
「少し音が遅れて聞こえますもんね」
「ガチガチの機材も導入出来なくはないけど、文化祭っぽくないしなー⋯⋯」
諸々反省点を述べていく。人のいない体育館は音が結構跳ね返るし、マイクの音質もあまり良くないため、パフォーマンスがし辛いことが分かった。ここについては、体育館のこの感じをイメージしながら、家の練習部屋で練習するしかないだろう。
⋯⋯それとは別に。
さっきから、体育館の外の様子が少しおかしい。
——人が多すぎる。リハーサルなのにこれだ。本番はどうなる?
頭のどこかで、嫌な予感がずっと鳴り続けていた。
私たちが体育館から出ると、入口には宮園さんが立っていた。
「ちょっと。西条⋯⋯凛音、来て」
「え?あ、はい」
私はアリサたちに軽く手で合図を送り、宮園さんの元へ向かう。
体育館の脇、少し人目の少ないベンチに座らされる。逃げ場なし、という感じだ。
「良い?一度しか言わないから、ちゃんと聞いてよ」
「は、はい」
宮園さんは、いつもより少し真剣な顔をしていた。
「今、あまりにもアンタたち目当ての客が増えすぎて、学校側が管理し切れるか怪しい状態になってる。親族枠も含めて、完全にキャパオーバー」
「⋯⋯」
「一部じゃ、入場権がネットで売買されてる。10万超えたって話も出てる」
「ええっ!?」
思わず声が出た。いや、それはさすがにヤバすぎる。
「このままだと、最悪——文化祭中止もあり得る」
その一言で、頭が真っ白になる。
文化祭が、中止。
クラスのみんなが準備してるお化け屋敷も、サーシャの焼きそばも、セリナの劇も、アリサの喫茶も。
全部、無くなる?
「それは⋯⋯嫌だ」
気付けば、そう口にしていた。
宮園さんは、少しだけ表情を緩めた。
「うん。アンタならそう言うと思った」
そして、少しだけ前に身を乗り出す。
「で、ここからが本題。アンタ、多分もう気付いてるでしょ?」
「⋯⋯え?」
「増えすぎた人をどうするか、じゃない。来させない、しかないってこと」
その言葉に、ハッとする。
⋯⋯そうだ。
いくら会場で分散させても、来る人の総数が多すぎれば意味がない。
「⋯⋯配信で、外の人には見てもらうしかないかなって思ってた。でも、それだけじゃ足りない⋯⋯かもしれないね」
「でしょ。だから、ちゃんと線引きするの」
宮園さんは、指を一本立てた。
「まず、なんで生徒とその親族しか来られない文化祭に、ここまで沢山の人が来てしまうと思う?」
「親族の定義が広すぎるから?」
「半分正解。もう半分は、学校側のチェック体制を軽んじられていて、親族のフリすれば入れるだろう。って考えが蔓延ってるから」
宮園さんの言葉に、親族枠がオークションで出ている噂を思い出した。これは生徒側も同じようにチェック体制を甘く見ていて、どうせバレないだろう。小遣い稼ぎになるだろう。という考えが形成されているんだ。
「だから、ここには二つ対策がいる。まずは親族の範囲を限定する。⋯⋯親、祖父母、兄弟まで、かな。いとこなんか出されるとキリが無くなってくるから」
「でもそれ、本当に来たかった叔父さんとか叔母さんとか、そういう人たちから不満出ない?」
「まぁそこは諦めてもらうしか無いっしょ。色々考慮できる余地はあるけど、限られた人員で限られた対応しか出来ないなら、これくらいが限度。親族参加無しにしてないだけ、ありがたく思ってもらうしかない」
宮園さんの言葉に、私は頷くしか無かった。万人に納得してもらうのは難しい。それでも、多くの人が納得して、文化祭の開催を目的とするならば、この上ない着地点だ。
宮園さん、見た目のギャルっぽさからは想像できないほど、色々と考えているみたいだ。⋯⋯または、私が考え無しすぎるのかもしれない。
「もう一つは、本人確認の徹底。来る親族は顔付き身分証使って事前登録してもらう。そんで、入場の時は顔で本人確認をする。これなら、他の人が成りすまして入る確率はグンと下がる。あと、このやり方を広く周知させて、チェック体制を舐められないようにする。そしたら、どうせ行けるっしょ的なマインドの輩を潰せる」
「なるほど⋯⋯」
確かに、宮園さんの言う通りだ。よくライブなんかである対策だ。なんで考えつかなかったんだろうか。我ながら、自分の馬鹿さ加減には涙が出てきそうだよ。
「その上でダメ押し。ライブは校内でも抽選制。全員見れると思わせない」
「そ、それは——」
「全校集会でさえ、体育館パンパンっしょ。そこに親兄弟だけでも皆入れば⋯⋯間違いなく体育館のキャパを超えるし、超えないにしても学校側は入場者数を把握できなくてリスクになる。なら、最初から最大人数を決めておけば、管理人員の配置もしやすくて、学校側は対策を立てやすい」
「⋯⋯たしかに」
私たちのライブを抽選制にする⋯⋯それは、考えてもいなかった対策だ。しかし確かに、宮園さんの言うことは至極真っ当。私は自分のことばかり考えていたが、宮園さんは学校側の気持ちを考えて策を講じている。大人だ⋯⋯。
私が宮園さんに感心していると、宮園さんが喋り始める。
「そんで外の人間には、全部配信に流す。むしろ、配信の方が良いって思わせるくらいにする。これさえあれば、アンタら目当てで文化祭に来れなかった人、ライブ見れなかった奴ら、全員を納得させられる」
そこまで聞いて、私は一度目を閉じる。
頭の中で、全部を組み立てる。
来場制限。混雑回避。配信への誘導。
⋯⋯現実的だ。
ちゃんと、文化祭を守れる形になっている。⋯⋯気がする。
「どう?出来そう?」
宮園さんがそう言った。
私は、ゆっくりと目を開ける。
「⋯⋯出来ると思う」
そして、少しだけ笑う。
「ありがとう。すごい助かった」
「別に。合理的に考えただけ」
相変わらず素っ気ない。でも、その視線は少しだけ優しかった。
たぶん、宮園さんも文化祭が楽しみで仕方ないんだ。私を助けるデメリットより、私を利用して文化祭を開催するメリットが勝ったんだ。ありがとう。
私は立ち上がる。
ここから先は——私の役目だ。
「任せて。私、出来るだけのことは全部やる」
宮園さんが、少しだけ目を細める。
「⋯⋯そりゃそうでしょ」
私は頷く。
そして、小さく息を吸って——
「——やろう。この文化祭、守ろう!」
その言葉と同時に、覚悟が決まった。




