32話
「ちょっと凛音!!」
「お、桜おはよぉ〜」
「おはよう!⋯⋯じゃなくて!昨日の配信、何!?」
「え?配信見てくれたの?なんだか恥ずかしいなぁ」
「恥ずかしいなぁ、じゃないよ!私、知り合いという知り合いから、文化祭に連れて行ってくれって言われたんだけど!おじいちゃんの従兄弟の孫の友達からも連絡来たんだから!」
配信翌日。登校した私を待ち構えていたのは、ぷりぷりした桜だった。
おじいちゃんの従兄弟の孫ってなんて言うんだろう。あ、『みいとこ』って言うんだ。へー。
「ちょっと、聞いてる!?」
「あ、ごめん。みいとこが何?」
「み⋯⋯?違くて!⋯⋯フルールのライブだよ!今、日本どころか世界中で話題になってるよ!朝のニュース番組でも取り上げられてたし、テレビ局も何社か取材に来るって躍起になってたよ!」
えー何それ⋯⋯。なんか予想以上の反響になっていてビビるんだけど。一探索者、一女子高生の文化祭パフォーマンスに、みんな何を期待してるんだ?馬鹿じゃないのか。
「まぁでも仕方なくない?その辺は学校側が上手いことしてくれるでしょ」
「いやそうなんだけど⋯⋯はぁ。凛音、あんまり自分たちの影響力ちゃんと理解してないでしょ?」
「そんな事ないよ?」
「そんな事ある!理解してたら、あんな軽率な発言しないよ!!」
桜から叱責を受け、思い返してみると、確かに少し軽率だったかもしれない。今の私たちは、下手な芸能人より影響力を持っているんだ。私たちの発言一つで世間がざわめく。そんな意識をする必要があった。
「確かにそうかも。ごめんね」
「謝ってほしいんじゃなくて、気を付けてくれればそれで良いから。⋯⋯よし、この話は終わり!文化祭は文化祭で、楽しも!」
「桜⋯⋯!」
「ちょっ⋯⋯!」
桜の言葉に、私は思わず桜を抱きしめる。桜は顔を赤くして狼狽えているようだ。このくらいのスキンシップで照れるとは、桜ちゃんはウブだねぇ。
桜を存分に抱きしめていると、クラス委員の坂口さんが声をかけてきた。
「ライブも楽しみだけど、まずはクラスのお化け屋敷、成功させよ。最優秀賞を取って、みんなで打ち上げだよ!」
「坂口さん!そうだね!まずは、お化け屋敷頑張ろう!!」
そして放課後。私たちはお化け屋敷の準備に取り掛かり始めた。
今回のお化け屋敷、私たちは本気で行く。お化け役のメイクも拘るし、一つ一つの小物もガチで作ることにした。
とりあえずは小物作りだ。私はネット通販で購入した骸骨の人体模型に、粘土やら何やらで怖い感じに仕上げていく。ポイントは、リアリティではなく、怖そうな感じに仕上げることを意識することだ。多分。
私が人体模型をグロテスクに仕上げていると、クラスメイトの女の子が声をかけてくる。この人は確か、ギャルの宮園さんだ。
「うわ、西条のやつ怖っ!」
「へへ、そうでしょ?」
「てか人体模型買ったの?自腹で?さすがに稼いでんなー⋯⋯」
「まあ⋯⋯否定はしないけど。これは完全に自己満だから!」
私の言葉に、宮園さんは「ふーん」と呟いてどこかへ行ってしまった。同じ高校生として、私くらい稼いでいるのが面白くない人が居るのは間違い無いだろう。宮園さんもそういう人の一人かな。
それ自体は特に気にせず、私のスペシャルホラー人体模型が完成した。後はバレないように闇属性を付与する魔法と、相手を恐慌状態にする魔法を少し振りかけて⋯⋯っと。
「!?凛音!それ何!?怖すぎるんだけど!?」
「おぉ、桜。どう?私の自信作!怖いでしょ?」
「なんかこう、腹の底から恐怖を感じるんだけど!なんかスキルとかで呪ってるの!?」
「んな訳無いじゃーん!大丈夫大丈夫!」
あははは、と桜を笑い飛ばしていると、クラスの扉が開かれる。そこには、アリサとサーシャが居た。
「お、アリサにサーシャ。どしたの?」
一応、日本での本名は有紗と紗々なのだが、配信では異世界での名前で呼んでいるため、こう呼んでも違和感は無いだろう。
「私のところは採寸終わって、ちょっと待ち時間あるから暇なのよ」
「私達もメニューは考え終わったので⋯⋯。セリナさんは劇の練習があるって、体育館に向かってましたよ」
「なるほどね〜」
要するに暇潰しに来たのか。歌の練習もダンスの練習も、タワマンの一室を使えばいつでもできる。だから練習しに来たわけではなく、ただ私に会いに来たと⋯⋯。可愛い奴らめ。
「ちょ、ちょっと凛音」
「?あ、そういえば桜にはちゃんと紹介した事無かったっけ?こっちの赤髪がアリサ、紫髪がサーシャだよ」
「よろしく、サクラ。リンネから話は良く聞いていたわ」
「サクラさん!私たちとも仲良くしてください!」
「!?う、うん。もちろん。⋯⋯って、凛音!廊下見て!」
アリサとサーシャが桜と仲良く手を握っている場面を見ていた私は、桜の言葉で廊下に目を向ける。
そこには、1年生から3年生、漏れなく沢山の人が私たちを見ていた。中には写真を撮る人もおり、先生に怒られている子も居た。
「なんていうか⋯⋯動物園の動物の気分だよ」
「このクラス入るの、人が多すぎて中々大変でしたよ」
「それだけ注目されてるって事ね」
アリサがバサッと赤髪を靡かせると、廊下の人達が沸く。うーん、これはあんまり良くないよなー。クラス委員の坂口さんは、人の多さにビビっているようだ。⋯⋯仕方ない、ここは私からビシッと————
「ちょっとアンタら、マジで鬱陶しいんだけど。ジロジロ見てんなよ」
そう思っていると、宮園さんが扉を開けてそう言い放った。ギロリと宮園さんに睨まれた人達は、すごすごと帰っていく。⋯⋯わお、凄い眼力だ。ナイスギャル。
私が心のサムズアップを宮園さんにしていると、当の本人がズカズカと私のところに来た。
「西条。⋯⋯あと二人も西条か。とにかく、アンタらのせいで、準備進まないんだけど。どっか他所でやってくれない?」
「⋯⋯それもそうだね。分かった」
宮園さんの言うことは尤もだ。思いの外、学校内でも私たちの影響力は高いらしい。クラスに迷惑をかけるのは本望では無いので、素直に宮園さんの言うことに従うとしよう。
私が食い下がったところで、アリサが宮園さんを睨みつける。
「ちょっと。急にそれ何?リンネは悪くないでしょ。私たちに出ていけって言うならともかく」
「⋯⋯西条⋯⋯凛音がクラスに居るだけで野次馬が出てきて、私たちは迷惑してんの。今年は受験もあるし、受験前の文化祭、成功させたいんだ」
「それはリンネも同じ。リンネは今年の文化祭、超楽しみにしてる。それを邪険にするのは、ちょっと許せないんだけど」
バチバチ、と両者の視線がぶつかった。宮園さん、アリサがノクスと戦った映像とか見てないんだろうか。絶対に勝てない相手でも、自分の信念を曲げない。その心意気、中々どうしてリスペクトしたいところだ。
「まーまーアリサ。ごめんね宮園さん。私たち、別の目立たないところで作業するから。許して。お願い!」
「⋯⋯西条がそう言うなら、それで良いけど」
「ありがと!よし、アリサもサーシャも、行こ!私の一反木綿制作に付き合ってもらうよー!」
私は一触即発な空気のアリサとサーシャを連れ、教室を出る。廊下の野次馬さん達にもぺこぺこ挨拶をし、人気のない旧校舎を目指した。




