27話
ちょっと長いです。
「今日もフルールに会えなかったな⋯⋯」
『どんまい』
『ストーカーすんなよ』
『夢見んな』
「なんか俺のコメント欄辛辣じゃない?」
『コメント欄なんか言えないくらいの人数しかいねーだろwww』
『強さもビジュアルも、何もかも普通なんだよな』
『タナトス、雑魚乙』
「トスと乙で韻踏むな」
俺は田中優斗。7級の探索者で、DIVERだ。ハンドルネームはタナトス。チャンネル登録者数80人、生配信の同接5人。持ってるスキルは望遠。名前だけ聞くと凄そうだが、見えるのはせいぜい2倍まで。双眼鏡以下である。
自動小銃で倒せる雑魚をチマチマ倒すだけの、しがない底辺DIVERである。
フリーターをしながら地道に探索者を頑張っていた俺に、心の底からの推しが生まれた。それがフルールだ。
フルールは、まずその圧倒的なビジュアルで人気が出た。黒髪のザ・美少女日本人なリンネ、赤髪の美女王様アリサ、紫髪の清楚系美少女サーシャ、金髪美少女元気っ子のセリナ。一人一人が100万年に一人の美少女、と話題沸騰だった。
え?俺の推し?そりゃ箱推しだ。皆大好き。
そして、ビジュアルからは想像できない圧倒的な戦闘能力。その戦闘能力は凄まじく、一瞬で5級も4級も薙ぎ倒し、この間は遂に特級なんていう聞いた事の無いモンスターまで倒してしまった。凄すぎる。
これらの要素から、チャンネル登録者数は1000万人を突破し、同接も10万オーバーが当たり前になりつつある。前代未聞のバズり方だ。今世界が最も注目している四人だろう。
「会いたいなぁ⋯⋯」
『タナトスの階層じゃ会えないだろ』
『会ってどうすんの?』
「どうするって⋯⋯そりゃ握手してもらったりとか」
『通報しますた』
『JKに発情すんなよオスザルが』
「お前らも似たようなもんだろ!?」
コメント欄の5人と話しながら、ダンジョンからの帰路を歩く。
お金が無いので、配信はダンジョンの中も外もスマートフォンでしてるし、移動も基本的には徒歩だ。自転車くらいは買えるようになりたい⋯⋯。ただ、それくらいの金の余裕が生まれたら、弾丸買いたいんだよなぁ。
なんて事を考えていると、横を黒いリムジンが通り過ぎる。
珍しいな、リムジンなんて初めて見たぞ。
『お、あれってWIOのリムジンじゃん』
「何それ」
『WIOがお客さんとか乗せるのに使ってるリムジンよ。相当VIPなんじゃね?』
『ワンチャン、フルールだったりして』
「いやいや、まさか」
確かに、良く見るとリムジンにWIOのロゴが付いてる。あんなのを社用車的に使えるなんて、お金持ってんなぁWIO。もうちょいモンスター討伐費用上げてくれれば、楽に暮らせるのに。
そんな事を考えていると、リムジンが進んで行った先で、急ブレーキ音が聞こえる。
「!?なんだ?」
『何かあったんだろ』
『見に行こうぜwww』
「え、ええー⋯⋯」
『もしかしたらフルールがピンチなのかも!』
「⋯⋯よし、行こう!」
そんな訳無いが、コメントを都合良く真に受けた俺は、走って現場へ向かう。
そこには、リムジンを囲むスーツ姿の男たち——そして、リムジンから降りたフルールの四人の姿があった。
「ふ、フルールだ!」
『え!?こんな底辺配信でフルールが!?』
『てかヤバくねこの状況』
『この配信、拡散した!』
何!?ヤバいヤバいヤバい!本物のフルールだ!実在したんだ⋯⋯!てか、配信中加工してないって噂、マジだったんだ⋯⋯生身であんなに可愛いの!?もう神がバグで作ってるだろ!
てか、あの周りのスーツ男たちは何なんだ?
『拡散されてたので来ました』
『本当にフルールおるやんけ』
『なんか只事じゃなくない?』
『この配信者何やってんの?銃は?』
『ダンジョン外は武器所有禁止だぞ』
『なら肉壁とか』
「いやいや、無理だって。人質に取られて終わりだよ」
『人質の価値も無いだろjk』
「酷いな⋯⋯てか、あの人たち何なんだ?ヤバくね、雰囲気」
『アレじゃない?エリクサー狙いの殺し屋とか』
『有り得る。なんか逃〇中のハンターみたいだよな』
『多勢に無勢』
『アークデーモンとかいう特級倒してるフルール相手に、正面切って戦いは挑まないんじゃないか』
そんな事を言っていると、私服のサーシャちゃんが一歩前に出る。今日もフワフワした感じで可愛いが、どうするんだろう。
そう思ったのも束の間、サーシャちゃんは武器を一つも持たず、生身でスーツ男達を殴り倒していく。時折スキルを使って何か仕掛けるヤツもいるが、全員関係無く殴っていっている。
『すげええええ!!』
『サーシャたん!?サーシャたんが何故こんな配信に!?』
『サーシャたんに殴られたいです』
『もう、俺さんはクズですね、ってゴミのような目で見られながら蹴られたい』
『変態共、サーシャたんを汚すな。死に晒せ』
「手刀でどんどん気絶させてってるけど⋯⋯」
『エンハンス持ちのアリサ様とリンネちゃまが強いのは分かるけど、サーシャたんは何事?』
『自分にバフかけてボコボコに殴ってるらしい』
『それだけじゃ説明つかんだろ』
『良いんだよ、フルールなんだから』
『まぁそれもそうか』
コメント欄は盛り上がっている。パッと見たら、同接が2000人を超えていた。こんな底辺配信でも、フルールが居るって噂あるだけで視聴者増えていくんだ。ヤバいな。
最後、何か他の人より偉そうなスーツ男がいたが、そいつもサーシャちゃんの拳一つで地面に沈んだ。バッファーなのに強すぎる。
暫くコメント欄に来たフルールファンと共に、サーシャちゃんを褒め讃えていると、——突然、空気がピンと張り詰める。
その時、俺は突然これまでの人生が思い起こされた。幼少期の思い出、両親との思い出、初恋の思い出⋯⋯そんな色々な記憶が瞬時に巡った。
こんな事、これまで経験した事がない。⋯⋯こ、これは⋯⋯。
「俺、生まれて初めて走馬灯が見えた」
『は?』
『は?』
『は?』
「いやいやマジだって!なんか急に、命の危険がビリビリって——」
そこまで言うと、突然フルールの近くに男が現れた。
それが何なのか理解する間もなく、いつの間にかリンネちゃんが吹っ飛ばされていた。え、マジで何も見えなかった⋯⋯なんだありゃ⋯⋯!
「リンネちゃん!?皆、リンネちゃんが!!」
『リンネちゃまあああああ』
『嘘だろ!?フルールにダメージ入れられるやつなんか居るのか!?』
『うお、なんだよあの黒コート!』
『特定班!ここどこ!?』
『たぶん東京都〇〇区〜〜2丁目だ!』
『俺のスキルで黒コートの気を引いてくる!』
ヤバい、ヤバいぞ。リンネちゃんをぶっ飛ばした謎の黒コート黒髪男。アイツが来た時、俺は走馬灯を見たんだ。それほどの圧倒的強さを感じて、俺の体は死を覚悟した——。
コメント欄と共に、どうしようこうしようと慌てていると、アリサちゃんが黒コートに突っ込む。
『うおおおお!!アリサ様あああ!!』
『つえええええええ!!』
『押してる!!良いぞー!!』
す、凄い⋯⋯生物として絶対に勝てないと、本能的に分からされた相手を、圧倒では無いが確実に押している。なんというデタラメな強さ。
アリサちゃんの顔を見ると、烈火のごとく怒りを顔に浮かべていた。仲間が攻撃されて怒っているんだ。やはりフルールは箱推しに限る。
「——なんだ!?」
その時、急に世界が引っ張られたように歪む。さっきの走馬灯を感じた時とはまた違う、何か異様な空気が満ちる。
『アリサ様あああああ!!』
『アリサ様に一発当てたぞ!?』
『直撃だ!!』
バッと見ると、アリサちゃんの体がくの字に曲がり、ぶっ飛んでいた。その衝撃は凄まじく、100メートルくらい離れた俺の所にも、とんでもない爆風が押し寄せた。
『おいバカ!死んでも映せ!』
『どこ映してんだ!!』
「そそそんなこと、いいいわれてももも」
ヤバい、爆風が凄すぎてスカイダイビングした時みたいになってる。カメラがブレ、上手く構えられない。やっと爆風が収まり、カメラをアリサちゃんの方に向ける。——そこには
「へ、変身してる⋯⋯?」
『何あれカッケェ!!』
『装備って持ち出し禁止だよね?』
『てかあんな装備、いつも身に着けて無いじゃん?』
『あれ、赤いラインはなんで発光してんの?』
『フルールだぞ、あんま考えるな』
アリサちゃんが、見た事ない装備に身を包んでいた。全体的に黒いが、マグマのような赤いラインが特徴的で、彼女の動きを邪魔しない洗練されたデザインの装備だ。グローブも強そうで、なんかちょっと炎が見えるような。
あんなカッコよくてファンタジー感満載な装備、アストラルが作ったんだろうか。よく分かんないが、一瞬で装備も変更したり、どういう仕組みなんだ。
そんな事を考えていたら、アリサちゃんが黒コートに突っ込む。
そこからは、もう何が何だか見えなかった。完全に別世界の戦い。生物としてのランクが、二人とも俺の何十段も上に居る。
『ははは⋯⋯凄すぎて笑うしか無いんだが』
『アリサ様ー!がんばえー!』
『お願い!負けないで!』
『アリサ様凄すぎるけど、あの黒コートも何者なんだよ』
『フルール、トラブルメーカーすぎる』
『やばいってマジで』
コメント欄は⋯⋯相変わらず外野として楽しんでるな。コイツらも実際に見てみて欲しい。この圧倒的な差を肌で感じる戦いを。
二人の目に見えない殴り合いは暫く続き、結果的には黒コートがボロボロになって逃げた。アリサちゃんは、一撃だけ貰ったものの、後はほぼ完封といった具合で、それがどれだけ圧倒的だったかを感じさせた。
こうして、俺の偶然フルールを捉えた配信は、同接7万人を記録した。しかし、他人を無断でメインコンテンツとして配信したため、タナトスチャンネルはBANされ、この配信のアーカイブは闇に消えた。それでも、たまに配信を録画してた奴がフル版を上げたり、切り抜きシーンを上げたりする、といった問題も発生してしまったが。
結果的にこの日は、フルールにアリサちゃん、そして黒コートがトレンド入りし、日本を騒がせた。そしてまとめサイト、切り抜き動画も無数に拡散された。
俺の弱小チャンネルがBANされたくらいでは止まらない、無数の注目がフルールを包んでいた。
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