表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/57

26話

「私は⋯⋯アリサ。特級。アンタは?」


 アリサの名乗りに、男はニヤリと笑う。


「面白い。俺はノクス。特級相当だ」


 空気が変わる。さっきまでとは違う、重い圧が場を支配していた。息が詰まるような感覚に、思わず喉が鳴る。久しぶりに見た、アリサの本気。それに真っ向から立ち向かおうとする、ノクスと名乗った男。


 アリサと、ノクス。あの二人だけで、まるで別の世界で戦っているみたいだった。


「⋯⋯来い」


 ノクスが短く言う。その瞬間、アリサの姿が消えた。


 ——見えない。


 ノクスがスキルらしきものを使った後と同じように、完全に視界から消えている。次の瞬間、爆音と共に地面が弾ける。ノクスの腕が動くが、ほんの僅かに遅れている。完全には捌けていない。10発に1発入っていた拳が、10発に3発は入るようになった。


「⋯⋯っ」


 鈍い音が響き、ノクスの体が横に流れる。初めてだ。ノクスが、明確に押された。


 ⋯⋯しかし次の瞬間には、もう体勢を立て直している。本当に気持ち悪いくらい、無駄の無い——非常に洗練された戦い方だ。

 それでも、ノクスは先ほどよりも多く、ダメージを受けている。これが、アリサの本気中の本気ということだ。


「アンタもエリクサー狙い?」

「そんなもの、どうでも、良いッ!——ただの、依頼だ」


 激しい殴打の応酬を繰り広げながら、アリサはノクスに問いかける。⋯⋯なるほど、依頼か。てことはスーツさん達と同じ、雇われの強者ってことか。世界にはこんな強い人も居るんだ。ヤバいな。


 アリサは急に攻撃を止め、ノクスの攻撃を全て捌く。疑問を覚えたノクスが距離を取ると、アリサは不敵な笑みを浮かべる。


「恐らく、アンタのスキルは5秒間の超スピード。その代わり、幾らかクールタイムがあるんでしょ?」

「⋯⋯その通りだ」

「なら待ってあげるわ。クールタイムは1分?5分?」


 何を言ってるんだ⋯⋯ノクスがスキルを発動すれば、スピードはセリナ並になる。つまり、セリナ以外対処できないスピードになるということだ。そうなれば、パワーとタフネスで戦うアリサには不利なはず。


 ノクスはアリサの言葉に面食らった顔をした後、ぐにゃりと顔を歪めた。


「⋯⋯ちょうど今、クールタイムが終わったところだ。その驕り、後悔させてやろう」


 男が静かに呟く。


「——終点加速(ターミナル・アクセル)、起動」


 また来た。

 世界が引き延ばされるような感覚。音が消え、空気が止まる。


 そして、ノクスの姿が消えた。


 ——後ろ!

 そう思った時には、既にアリサの背後にノクスが居た。さっきより明らかに速い。反応できるわけが——


「——遅い」


 アリサがそう言った。振り向きもしないまま、肘が振り抜かれる。


 ——当たった。


「⋯⋯!?俺の加速に——ッ!?」


 ノクスの体が僅かに止まる。完全に捉えている。あのスピードの中で。⋯⋯凄い、あのスキル発動後はセリナに肉薄する速さだ。それをアリサは、反射神経や殺気などで先読みして攻撃しているんだ。


 そのままアリサが踏み込む。一歩。それだけで距離が消える。


「はぁっ!!」


 拳、膝、蹴りの連撃。先ほどまでよりも、一発一発が重く、そして速い。ノクスの防御が追いついていない。一撃、二撃、三撃。確実に当てている。


 ——そして、ふっと空気が戻った。


 ノクスの動きが僅かに鈍った。⋯⋯終点加速(ターミナル・アクセル)が切れたんだ。


 そう私が理解した瞬間、アリサが踏み込む。


「終わりよ」


 ——直撃。


 拳が真正面からノクスの鳩尾を捉える。衝撃が爆ぜ、ノクスの体がくの字に曲がり、大きく吹き飛ぶ。地面を削りながら、何十メートルも転がる。アスファルトが抉れ、何枚も窓ガラスが割れている。これが人間の戦い?な訳ないだろう。まさに超人対超人だ。


 転がり続けたノクスが止まると、静寂が訪れる。誰も動かない。


 やがて、ゆっくりとボロボロのノクスが立ち上がった。口から血を吐き、手の甲で拭う。そしてやはり、ほんの少しだけ口元を歪めた。


「⋯⋯なるほど」


 小さく呟く。その視線は、完全にアリサだけを見ていた。


「理解した」


 一歩踏み出す。その動きに迷いは無い。


「お前に勝つのは——まだ無理そうだ」


 そうノクスが呟いた瞬間、ノクスの足元が僅かに沈む。そして次の瞬間——消えた。


 視線を上げると、ビルの屋上。そこにノクスの姿があった。


「また来る。⋯⋯報酬以上の価値はあった」


 それだけ言って、ノクスは背を向ける。そのまま屋上から姿を消し、完全に気配が途切れた。勝てないと判断し、引いたんだろう。


「⋯⋯はぁ」


 気付けば息を吐いていた。戦闘には参加してないはずなのに、ずっと緊張していたらしい。


 視線を戻すと、アリサがゆっくり拳を下ろしていた。その横顔は、どこか楽しそうだ。


「次は、もっと完膚無きまでに叩き潰してやるわ」


 どうやらアリサはまだ強くなる予定らしい。アリサはそう呟くと、私たちに綺麗な笑顔を見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ