23話
「いやー、バズり散らかしてるねえ」
「切り抜き動画も2000万再生行ってますし、どこまで行くんでしょうか⋯⋯」
リムジンを使ったWIO日本支部からの帰り道。話題は自然と、フルールのDIVE活動についてだった。あの日から暫くトレンドをフルールが席巻し、チャンネル登録者数は大台の1000万人を突破。間違いなく、今最もバズっている配信者になった。
まだコラボ配信から3日程度しか経っていないが、私たちがダンジョンに行っていない間、いつもの最寄りダンジョンは凄い人だったらしい。それはダンジョンの外も中も凄いらしく、私たちを一目見ようと来ているんだとか。
そこそこ学校バレもしていて、高校の周りには怪しい人集りが出来ていたりする。そういう追っかけは良くないと、なんで分からないかなぁ。
私たちは近々、森山さんの勧めで住所バレが絶対にしない——何故かは分からない。怖いから聞かなかった——タワーマンションに引っ越すことになった。あのアパートじゃ4人で住むには手狭だったし、セキュリティも弱いから仕方ないよね。
「ちょっと派手にやりすぎたよね⋯⋯反省してます⋯⋯」
「ま、仕方ないんじゃない?勇者ってそういうもんでしょ」
「アリサ⋯⋯!」
さも当然のように慰めてくれるアリサに、私は感謝の抱擁で答えた。アリサは照れくさそうにしながらも、どこか嬉しそうな笑みを浮かべている。可愛いヤツめ。
「あー!またアリサとリンネだけでイチャイチャして!」
「この間、お二人だけでホテルに泊まったの、まだ許してませんからね!」
「へへへ⋯⋯今度は皆でラブホ女子会しようねー⋯⋯」
そんな、ややピンク色の話をしていると、リムジンの運転手が急ブレーキを踏んだ。なんだなんだ?
「どうしたんですか?」
「すみません⋯⋯どうやら、囲まれているようで⋯⋯」
リムジンの窓から外を見てみると、スーツを着た大人が20人くらいで取り囲んでいる。⋯⋯刺客が早速来たみたいだね。
私たちはリムジンを飛び出すと、スーツ男たちのリーダーっぽい人が前に出てきた。
「お前がリンネ・サイジョウだな。死にたくなければ、エリクサーを置いていけ」
口元の動きと言葉が合わない⋯⋯この人、外国人だな。たぶん西洋人か欧米人って感じ。私の持つ勇者の加護は、不老の力などを内包した加護であり、数々ある能力の一つが『全言語理解』というものだ。これは異世界人である私が、異世界の言語習得にコストを費やさない為のものだろう。アリサ達も、こっちに来た時に全言語理解の能力は付与されている。
この力のお陰で、目の前にいるどう見ても海外のエージェント的な人の言葉が分かるから、ありがたい限りだ。
なお、これは私の言葉が相手にもしっかり伝わるようになっている。だから、私が日本語で話しても、相手にはきちんとコミュニケーションが取れる言語で聞こえるはずだ。
「あれ、どう思う?」
「素人じゃないね。ほぼ間違いなく、暗殺とか誘拐とかを生業にしているプロって感じ」
「だよね⋯⋯」
やはり、どこかの国のお偉いさんに雇われた暗殺集団だとか、機密エージェントだとか、そういう感じの集団か。装備も統一性があり、隠密性に特化した感じである。モンスター退治だけを生業にしている探索者と異なり、高い対人経験を感じさせる。
私は、そんな人達に大声で宣言する。
「嫌です。エリクサーは渡せません」
「そうか。なら、死ね!」
そう言うと、スーツの方々が一斉に私たちを襲いにかかる。見た感じ、全員レイナさんより強い。しかし、私たちよりずっと弱い。
「リンネさん、下がっていてください。私が守りますから」
「サーシャ?」
すると、サーシャが一歩前に出てきて、私を庇う体勢を取る。あれ、おかしいな。こんなこと異世界では無かったんだけど⋯⋯。
サーシャの視線の先には、私を掴んで離さないアリサが居た。⋯⋯まさか、今さら私たちの中でヤキモチを?いやそんな、ある訳無いか⋯⋯。
サーシャはバフ魔法とデバフ魔法をかけると、拳を構える。そして、武装した手練の男たちを、次々と徒手空拳で倒していく。普通避けられない銃弾も、当たり前のように回避しては相手に接近していく。
「はっ!ふっ!はぁーっ!」
「え?サーシャって、あんなに戦えたっけ⋯⋯」
「こっち来てからあんまり戦闘で活躍出来ないからって、私に格闘技を習いに来たのよ」
「私にも習いに来たよ!結構スジ良いし、あれは化けるね!」
「あー、なるほど⋯⋯」
つまりあれだ。サーシャは今、バーサクヒーラーへの道を歩んでいるのだ。相手のステータスを下げ、自分のステータスを上げ、傷は自分で治すステゴロタイプ。末恐ろしい限りだ。
サーシャは、スーツさん達を次から次へと手刀で気絶させていく。あれ、私もやりたくてアリサに教えてもらったけど実現できなかったんだよな。私もやりたいのに。恐ろしく早い手刀。
なんて事を考えていると、あっという間にリーダーっぽい人だけが残された。しかし彼は慌てた様子も見せず、むしろ笑って見せた。
「惜しかったな、時間切れだ。即死!」
「⋯⋯⋯⋯はい?何かしましたか?」
「⋯⋯⋯⋯は?」
わお。マジか。
即死。それはとても有名なレアリティAのスキルであり、効果は単純明快。一定時間視認し続けた相手を、問答無用で即死させる能力。弱い人は1時間とか見続ける必要があるが、早い人なら数十秒で済む。この人は、約15秒程度で発動した。かなりの手練だったのだろう。
ただ、ウチのサーシャには効かなかった。理由は単純で、サーシャが持つ『聖女の加護』の能力に、呪い・毒・精神攻撃系統への高い耐性がある。それは、即死スキルにも有効なようだ。アリサの『剣聖の加護』、セリナの『盗賊王の加護』、そして私の『勇者の加護』にも似た能力があるため、私たちのパーティには即死スキルは通じない。
この人は、即死のスキルを持っていたから、アークデーモンを倒した私にも強気で来られたのだ。まさか効かないとは思わなかっただろうが。
即死スキルを無効化したサーシャは、一瞬でリーダー(仮)の元へ行くと、鳩尾へ拳を深く突き立てる。たまらず、リーダー(仮)は意識を失い倒れた。
サーシャは素手で刺客全員を倒すと、私にキリッとした顔を向けて言い放つ。
「私も、リンネさんを守りますからね!」
「!⋯⋯ありがと、サーシャ」
私を守ろうと立ち上がり、コソ練してた近接戦闘もお披露目してくれて。私としては、とにかく嬉しい限りだ。また惚れ直してしまった。
「⋯⋯!リンネ、ヤバい」
その時だった。セリナの表情がスッと消えると、拳を構える。
「?どうしたの?」
「もう一人、とびきり強いのが来るよ。⋯⋯多分、今のリンネより強い」




