威嚇(紀野視点)
「特に連絡という連絡もなく、、、」
特段個人的にも話したいことがなかったようで、「かわせん」こと、担任は少し手持ち無沙汰な様子だ。
「んじゃ、まあ今日も一日元気に過ごしましょーね」
短い朝礼が終わり、蜘蛛の子が散るように皆各々の目的地へと向かう。そんな中、廊下に向かう者たちに1人逆行する俺。窓際で呑気にお茶を飲んでいる折小野の方へと歩いて行く。
「折小野、お前ちょっと昼に話あるから」
「話?なんか真剣じゃない?怖いぃ。俺何かした?」
いつもは別に気にもならない話し方が、今日は無性にうざったく感じた。周りに人がいる手前、感情を出さないように努めたものの、滲み出るものは抑えられていなかったようだ。
「それも昼に」
「お、おう、わかった」
鈍感なコイツも、流石に危険を察知したようだ。俺の顔色を分かりやすく窺うが、それ以上は何も言わなかった。そして、このごく短いやり取りの中、数名の視線が感じられたのは、気のせいではないはずだ。
(見せ物じゃねーっつーの)
威嚇がてらその視線を反射させる。すると、辿った視線の元に幸村さんの姿があった。
(いや、これは睨み返したとかではなくて、)
視線が合った瞬間、勢いよく方向を変えて行ってしまった。これは、さらに心証を悪化させてしまったはずだ。
そう、朝のあれはそういう意味だったのだ。幸村さんと村田は同じダンス部でとても仲がいい。その友達を大々的に馬鹿にされたとなれば、怒り心頭だろう。すぐにでも弁明したいところだが、今はもう一限までに時間がない。タイミングを見て今日中に声をかけよう。
いつもなら教室移動は折小野を連れて行くが、今日は何も言わずに1人で歩き出した。




