探偵大発生
どういうことなんだ。
金曜日のあの手紙は、教科書に挟んで澪に返してしまったが、一行を除いて、書いてある内容はほとんど変わらないと分かる。それに字も同じ。違うのは、送り主が書いていないのと、宛先が澪になっている点。
(何で宛先が澪に?紀野君が2枚書いたってこと?何で?)
ただ混乱しながら、その手紙を凝視することしかできない。
「何、南いつにも増して超真剣に食いついてんじゃん。」
麗亜が少し引き気味に茶化してくる。
ハッと我に返ると、人の半円の中心で、貼られた紙を真正面から凝視してしまっていた。
皆の視線の一部は紙から私へと移っていた。
(まずい、さすがに怪しすぎる)
「え、、だ、だってこういうの久々じゃん!私大好物なんだよ、ゴシップ!」
焦りを覆い隠すように、わざとおばさんっぽく、大げさに手を仰いでみる。
「ハハッ!まじでおばさんっぽかったわ今の」
「本物がいた」
「将来そんな残念な感じになんなよー」
皆、口々におばさんムーブへの反応を示してくれる。
不自然な挙動をかき消すことができたようで、肩をなでおろす。
これ以上粗を見せないように、その場から静かに離れるが、他の人はまだ手紙について議論を交わしたいようだ。
「この字、多分だけど紀野じゃね?」
「いや、紀野君はもう少し綺麗だったと思うけど」
「言われてみればそんな気もするなー」
「なんか紀野と言われれば紀野ってくらいだわ」
「でもなんか折小野の字な気もするんだよね」
「あー確かに、なんか混ぜた感じするかも」
(本当に、どういうこと?)
最初は混乱一色だった頭の中が、次第に赤い怒りに染まっていく。
要するに、金曜のあれはいたずらだったということだ。
彼はそういうことをするような人ではないと思っていたが、揺るぎない証拠が出てきている。
冷たい真顔で、一番窓側の後ろから二番目の席に向かう。
「てかこの澪?って人隣でしょ?まだ来てないの?」
「まだっぽい」
「まじかー早く来てほしいわ!!」
一旦リュックを机に置き、ロッカーにしまう荷物を取り出して廊下に出る。
しゃがんで見せかけの南京錠を外し、ジャージや教科書を入れていく。
その間も、思考は止まらない。ロッカーの扉に手をかけて、首をひねる。
だが、時間も時間になってきたので、右から流れてくる人が増えてきた。
邪魔にならないよう、堂々巡りを切り上げて、教室に戻ることにする。
勢いよく立ち上がり、歩いてくる人たちの方に目をやると、その中に紀野君の姿を見つける。
今朝はこの瞬間を待ちわびていたのに、今は憤りと不信感しかない。
「幸村さ、」
彼は誰にでもしっかりと挨拶をする好青年だ。だが、そう思っていたのも昨日までの話。
目に入らなかったふりをして、さっさと教室に入る。いつもなら「おはです!」なんて気分良く返していたところだ。だからこそ、その対応の差に戸惑っているのが見える。だが、それだけではなく、確かに少し睨んでしまったかもしれない。ちょっとやりすぎただろうかと頭をよぎるが、それくらい許せとも思う。
(みんなにガンガン問いただされて、見せしめにされればいいわな)
黒板の前には入れ替わり立ち代わりで人が集まっている。この騒ぎを聞きつけて、他のクラスから来ている生徒もいるくらいだ。
「お、来た来た!紀野!ちょっとこっち来いよ!」
「何、朝からどうした」
皆、ニヤニヤしながら紀野君の一挙手一投足を目で追う。
「まあまあ、これを見てから言ってくださいよ」
紀野君が一旦教室の前方にある自席に荷物を置き、面倒くさそうに黒板の中心へ移動する。
最初は呆れしか見えなかった表情も、瞬きが減っていき、眉も顰まり、次第に口角は下がる。
彼が手紙を凝視する十数秒の間、野次馬たちも彼を凝視し、口をつぐんでいる。
そして、待望の第一声が放たれる。
「え、何これ。誰、貼ったの」




