隠し事
「あっ、澪だ」
次の授業の準備をしてからまだ時間があったので、お手洗いに行って帰ってきたところ、ちょうど澪も美術室から帰ってきた。
「ようよう、澪画伯!丁度いいところに!」
「何ー?今日そういうテンションなんだ」
村田澪は同じダンス部に所属する、隣のクラスの親友だ。
髪は化学繊維のように艶があり、顎のラインで寸分のズレもなく切りそろえられている。
彼女はこの直線美を継続するために、最低一か月に一度は美容院に通っているらしい。
カットとは別にお高いトリートメントとやらもやってもらっているというのだから、一年に一体いくらかけているのか知れない。
(美人だからこそ、さらに映える。私が髪をトゥルトゥルにしたところでああは見えまい)
「そういうテンションも何も、いつもと変わらないっすよ」
「いや、明らかに何か違和感あるんですけど。ま、いいや。なんか用事だった?」
綺麗に整えられた眉毛が、少しだけ上昇する。眉毛までトリートメントしてるのかと思うくらいだ。
「あ、そうそう、これさ、古典の教科書なんだけど。なんか取り違ってたみたいなんだよね」
その一瞬、澪の顔がほんのわずかに引きつったように感じた。
「あ、本当に?多分部室片付けた時に入違ったのかな」
うちのダンス部の部室は人数の割にかなり広くなっており、教科書や予備校の参考書などのかさばる荷物も、何でも置くことができる。故に少々物が多くなっており、取り違えも頻出してしまっている。
「多分ね。部活前に部室探してみて?明日古典なのでよろしくです」
「おっけー。忘れそうだからまた言ってくれる?」
「了解です!」
「あ、そういえばさ、古典のプリント1枚探してるのがあったんだけど、どっか挟まってたりしなかった?」
(挟まってたと言えば、別のものがあったが・・・)
「いや、特に何もなかったと思うよ?」
「そっか!おけい!」
「うん。じゃ、またねー!」
「またねー!」
こうして取り違えられた教科書の片割れは、無事に持ち主のもとに帰還した。
他人宛の手紙とともに。




