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反省と回顧(折小野視点)

俺は何であんなことをしちまったんだ、、、


紀野は去年、高校に入学してから出会った。同じ男子バレー部に所属していて、最寄駅も同じだ。少し生真面目なところもあるが、ブレがなく、なかなかにいい男だと思う。


(それをあんなに怒らせるとは、、、)


あんなに怒りに染まった紀野を見たことがなかった、と言うより、そもそも感情を表に出すことがない奴だ。それをあんなに怒らせてしまうなんて、後にも先にも俺だけなんじゃないかと思うくらいだ。


そもそも何でこんなことになったのかと言うと、一週間前の5月24日(金)に遡る。


○○○


その日の5限は、通称ハゲワシと呼ばれる嫌味な男の古典の授業だった。


そして珍しく紀野は教科書を忘れたとかで、どうやら隣のクラスの村田さんに借りたようだ。


(まーた村田さんか、随分仲(・)が(・)い(・)い(・)よな)


隣のFにもバレー部の男はいるというのに、あえて女子に借りるんだから、そういうことだ。


村田さんといえば、一部の奴らには刺さる、高身長クールビューティー女子である。俺も全然嫌いじゃない。だが、近寄りがたいのと高嶺の花は紙一重だ。それでも、芯のある紀野のことだ。怖気付いたりせず、堂々と接している。それに、村田さんの方も、他人目から見てもなかなか心を開いているようだし、友達の俺としては修学旅行前に一山作ってやりたいところだ。


(何か良い方法ねーかなー)


一枚多く出し過ぎたルーズリーフをペラペラと揺らしながら、本業以外に集中する。


(そういや、この間紀野と俺の字が似てるって言われたよな)


縦に連なる文字に目を落とす。お世辞にも綺麗とは言えない、いかにも男っぽい字。そもそも綺麗、汚い以前に雑だ。別にノートを後で見返すことなんてないが、抜き打ちで提出させられたりすることがあるから一応板書を写している。ハゲワシ以外の誰に見られるわけでもないし、それで良い。


対する紀野の字は、俺より幾分かマシではある。何よりあいつは丁寧だ。だが確かに男っぽい。たぶん払いや曲がりの勢いが良くて、見方によれば雑に見えるかもしれない。それで似ていると思う人もいるのだろう。それに何故か知らんがやけに筆圧が濃いのが特徴だ。そうやって肩肘張って生きているから、俺みたいな奴に揶揄されると言うのに。


(と言うことは、月報にあるお悩み相談コーナーに面白いのを書いて送ってやってもバレなそうだな!)


これは良いことを思いついた。あの好青年な紀野が「女の子との話し方がわかりません」とか「パンチパーマをかけようかと思っています」とか送ったら、最高に面白い。俺の友達が月報の編集部員なので、ちょっと取り計らってもらうことも出来るはずだ。だが、そいつも紀野のことを知っているので、字はちゃんと真似て書かないとな。


(さぁて、いっちょやってやりますか!)


そうしてコソコソと他人の字を真似て書く練習を始めたのだ。念のためハゲワシを見ると、ゴルフの素振りをしている。教師って暇なときは暇だよな。とにかく、内職をしてもバレそうにないので、まずはクラスや名前だ。これは特にその人の個性が出るところだから、あいつから借りた参考書に書いてあったものを参照した。5回程度練習しただけだが、舜の一画目の払いなんかはなかなか似ていると思う。


次は肝心の本文だが、とりあえず「女の子との話し方がわかりません」にすることにした。この方がみんなの興味を引けるだろう。修学旅行前で浮ついているのは俺だけじゃないと思う。それと字については、あいつは左利きだから、右肩下がりに書く傾向がある。罫線があるのに大げさにしてもアレだから、気持ち程度に抑えておく。


(内容はとりあえず、気になる人がいますとかにしといて、)


「僕は今、気になっている人がいます。その人は結構前から知っているのですが、逆にそのせいで、今更どうやってそういう方向に進めれば良いかわかりません」


(おう、何かかなり具体的にはなっちまったな)


「修学旅行も近いので、そろそろ勇気を出して一歩前進させたいです。」


(つーか、これ相談ってかほとんど告白じゃね?)


そう思った瞬間、よからぬ事が頭をよぎってしまった。

この文字を使えば―


(いや、でもそれは流石にモラルがなさすぎるか)


ここ数週間俺はあいつに鎌をかけていた。だが、あいつは照れ隠しなのか何なのか、村田さんとの関係について「前から知ってる」としか言わない。好きかそうじゃないかを聞いているのに、いつも曖昧に返してくる。白黒はっきりしているあいつがあそこまで答えを濁すのは怪しい。前に女子に告白されてた時なんか、「ごめん、好きとかではない」ってはっきり言うから、その女の子は陰で泣いていたらしいからな。


そう思うと、あいつはそこそこモテるのに、浮ついた話を一切してこない。仲間内でそういう話になってもあんまり入ってこない。とは言っても興味がないっていう感じでもない気がする。それも、村田さん一筋ってことの裏返しなのではないか・・・。


とにかく、俺にしてやれることと言えば応援してやることだ。とりあえず、あいつが村田さんのことを好きだと言うのはほとんど確定と思って間違いない。村田さんの方もまんざらでもなさそうな感じだ。あと一押しあれば磁石のように簡単に引っ付くはずだ。


紀野と字が似ているからこそ出来ること、、、


(してやるか!代理告白!)




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