第94話 橘尚哉は悩んでいる。
いつもの四人の昼休み。
小春が話している。
灰原が適当に相槌を打つ。
六花が苦笑する。
最近では見慣れた光景だった。
「そういえばさ〜」
小春が言った。
「来月だよね〜」
「何が?」
六花が聞き返す。
「六花ちゃんの誕生日」
「あ」
六花は小さく声を漏らした。
「そうだった」
「忘れてたの?」
「少し」
「少しじゃないでしょ」
小春が呆れた顔をする。
◇
「白鷺らしいな」
尚哉が言った。
「そうかな」
「そうだろ」
灰原も頷く。
「自分のこと興味なさそうだし」
「それはひどい」
六花は少しだけ頬を膨らませた。
◇
「で、何か欲しいものあるの?」
小春が聞く。
「欲しいもの?」
「誕生日プレゼント」
「うーん……」
六花は少し考える。
そして。
「特にないかも」
そう答えた。
◇
「はい出た」
小春が天井を見上げた。
「絶対あるやつじゃん」
「本当にないよ?」
「嘘だ」
「嘘じゃないよ」
「そんなはずないよ」
小春は譲らない。
六花は苦笑した。
◇
そのやり取りを。
尚哉は黙って聞いていた。
◇
放課後。
二人で帰る。
◇
「そういえば」
尚哉が言った。
「誕生日」
「うん?」
「本当に欲しいものないのか」
六花は少しだけ驚いた。
昼休みの話を覚えていたらしい。
◇
「欲しい物って言われても…思いつかないよ」
「本当に?」
「本当に」
六花は笑う。
「だって今、結構幸せだし」
六花は少し俯きながら言う。
◇
尚哉は黙った。
六花は続ける。
「だからあんまり思いつかないのかな」
「ふーん」
尚哉は短く返す。
けれど納得していない顔だった。
◇
「何?」
六花が聞く。
「別に」
「絶対別にじゃない」
「そうか?」
「そうだよ」
六花は笑った。
尚哉も少しだけ笑う。
◇
駅へ着く。
別れ際。
「じゃあまた」
「ああ」
いつものやり取りだった。
◇
帰宅後。
尚哉はベッドへ寝転がった。
スマホを取り出す。
なんとなく検索画面を開く。
◇
「……」
◇
数秒考える。
◇
そして。
◇
『高校生 彼女 誕生日プレゼント』
◇
検索した瞬間。
尚哉は顔をしかめた。
◇
「なんだこれ」
◇
アクセサリー。
香水。
ぬいぐるみ。
雑貨。
ランキング。
おすすめ。
◇
全然分からない。
今まで全く興味のないジャンル。
◇
「いやこんなん分かるか」
◇
そもそも。
六花は欲しいものがないと言っていた。
◇
でも。
◇
本当に何も渡さないのは違う気がする。
◇
喜んでほしい。
◇
その気持ちだけは、間違いない。
◇
「……面倒だな」
尚哉は呟いた。
◇
本気で面倒だと思っているわけではない。
むしろ逆だった。
◇
こんなことで悩むのは初めてだった。
◇
何をあげれば喜ぶのか。
何なら笑ってくれるのか。
考えても考えても全然分からない。
小春に相談するか。
いや、それはどう考えても最終手段だ。
◇
それでも。
考えること自体は嫌じゃなかった。
六花が喜ぶ姿を一番先に想像しているから。
◇
尚哉はもう一度スマホを見る。
検索結果は相変わらずさっぱり分からない。
それでも画面を閉じる訳にはいかなかった。
◇
橘尚哉は悩んでいる。




