↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
87/133

第87話 白鷺六花は意味を知る。

 翌朝。


 六花はいつもより少しだけ早く目が覚めた。


 カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。


 ぼんやりと天井を見る。


 そして。


「……」


 昨日のことを思い出した。


     ◇


 私は。


 橘尚哉くんのことが好きなんだ。


     ◇


 昨夜、自分で認めた言葉だった。


 なのに。


 朝になった今でも少し信じられない。


 夢だったような気もする。


 けれど。


 何度考えても答えは変わらなかった。


     ◇


 学校へ向かう。


 教室へ入る。


 窓際の席。


 そこにはいつもの姿があった。


     ◇


 尚哉は頬杖をつきながら窓の外を見ている。


 いつも通り。


 本当にいつも通りだった。


     ◇


「…おはよう」


 六花は声を掛ける。


「ああ」


 尚哉が振り返る。


「おはよう」


     ◇


 それだけだった。


 何も特別じゃない。


 昨日までと同じ。


 なのに。


     ◇


「……」


 六花は自分の席へ座る。


 少しだけ顔が熱かった。


 たぶん気のせいじゃない。


     ◇


 授業が始まる。


 ノートを取る。


 先生の声が響く。


 教室の景色は何も変わらない。


 世界は昨日と同じだった。


     ◇


 変わったのは。


 自分だけだった。


     ◇


 昼休み。


 いつもの四人で集まる。


 小春が話す。


 灰原が笑う。


 尚哉が購買のパンを食べている。


 いつも通りの日常だった。


     ◇


「そういえばさー」


 小春が言う。


「来月の校外学習どうする?」


「知らん」


 尚哉が無愛想に返す。


「興味持ってよ〜」


「ある程度は持ってる」


「その言い方で信用できたことなーい」


 灰原が笑う。


     ◇


 六花もつられて笑った。


 尚哉も少しだけ笑う。


 ただそれだけ。


 それだけなのに。


     ◇


 …嬉しい。


     ◇


 六花はふと気付いた。


 昨日までは分からなかった。


 でも今は少しだけ分かる気がする。


     ◇


 好きだから。


 笑った顔を見ると嬉しい。


     ◇


 好きだから。


 隣にいると安心する。


     ◇


 好きだから。


 目で追ってしまう。


     ◇


 全部。


 特別なことじゃなかった。


     ◇


 放課後。


 帰りのホームルームが終わる。


 いつものように尚哉が言う。


     ◇


「帰るか」


     ◇


 たった一言。


 最近では当たり前になった言葉。


     ◇


「うん」


 六花も頷く。


 二人で教室を出る。


 廊下を歩く。


 階段を下りる。


 校門を抜ける。


     ◇


 会話は他愛もないものだった。


 授業の話。


 灰原の話。


 小春の話。


 昨日と変わらない。


     ◇


 駅が近付く。


 別れ道も近付く。


     ◇


「じゃあまた明日」


 六花が言う。


「ああ」


 尚哉は頷く。


「また明日な」


     ◇


 尚哉はいつも通り、駅の方へ歩いていく。


 六花はいつも、その背中を見送っている。


     ◇


 そして。


 ふと思った。


     ◇


 …明日も会える。


     ◇


 その当たり前が。


 どうしてこんなにも嬉しいのだろう。


     ◇


 文化祭の準備をしていた日。


 一緒に帰った日。


 図書室の日。


 昨日の帰り道。


     ◇


 思い返すと。


 全部同じだった。


     ◇


 私はきっと。


 特別な出来事を好きになったんじゃない。


     ◇


 何でもない時間を。


 橘尚哉と過ごす時間を。


 好きになったんだ。


     ◇


「あはは……」


 小さく笑う。


 少しだけ照れくさかった。


     ◇


 好きになるということは。


 世界が変わることじゃない。


     ◇


 今まで当たり前だったものが。


 ほんの少しだけ、特別になることなんだ。


     ◇


 白鷺六花は意味を知る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。