↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
81/133

第81話 白鷺六花は気づかない。

 文化祭は無事終了した。


 沢山の準備をした行事、片付けるのはあっという間。


 翌日の学校は日常を取り戻していた。


 廊下から聞こえていた呼び込みの声もない。


 体育館のステージも片付けられている。


 教室の後ろに貼られていた文化祭関連の掲示物も、ほとんど外されていた。


 昨日までの賑やかさが、まるで夢だったみたいだった。


     ◇


「なんか寂しいね〜」


 小春が言った。


 昼休み。


 いつもの四人だった。


「文化祭終わっちゃった〜」


「分かる」


 灰原も頷く。


「準備してる時は大変だし、早く終われと思ってたのにな」


「それな〜」


 二人は盛り上がっている。


 六花も小さく笑った。


「楽しかったもんね」


「六花ちゃんはめちゃくちゃ働いてたじゃん」


「そうかな」


「実行委員の人たちに感謝されてたし」


「そんな大したことしてないよ」


 六花は苦笑する。


 すると。


「いや、してただろ」


 尚哉が言った。


 パンを食べながら。


 当たり前みたいに。


「そうかな」


「そうだろ」


「そうかも」


 小春が頷く。


 灰原も頷く。


 六花は少し困ったように笑った。


     ◇


 授業はいつも通り進んだ。


 文化祭が終わったからといって、


 学校生活そのものが変わるわけじゃない。


 先生の声。


 ノートを取る音。


 窓の外の風景。


 全部いつも通りだった。


     ◇


 そして放課後。


 帰りのホームルームが終わる。


 生徒たちが立ち上がる。


 部活へ向かう者。


 帰宅する者。


 教室は少しずつ空いていく。


 六花も鞄を持った。


 その時。


「……あ」


 小さく声が漏れた。


     ◇


 文化祭の仕事。


 もうないんだ。


     ◇


 少しだけ立ち止まる。


 最近は当たり前だった。


 放課後になると。


 資料を持って。


 実行委員室へ行って。


 進行表を確認して。


 帰りも一緒だった。


 それがいつの間にか日常になっていた。


     ◇


「六花ちゃん?」


 小春が不思議そうに聞く。


「どうしたの?」


「あ、ううん」


 六花は笑った。


「何でもない」


 本当に何でもなかった。


 文化祭が終わった。


 それだけだ。


     ◇


 小春は先に帰っていく。


 灰原も部活へ向かう。


 教室には数人しか残っていなかった。


 六花も帰ろうとする。


 すると。


「白鷺」


 声がした。


 振り返る。


 尚哉だった。


     ◇


「帰るか」


「え?」


 思わず聞き返す。


 尚哉は少し不思議そうな顔をした。


「駅まで」


「ああ」


 六花は小さく頷く。


「うん」


     ◇


 二人で教室を出る。


 廊下を歩く。


 階段を下りる。


 特に文化祭の話をするわけでもない。


 特別な会話もない。


 それでも。


 足取りは自然だった。


     ◇


「文化祭終わったな」


 尚哉が言った。


「終わったね」


「疲れた」


「それは分かる」


 二人は少し笑う。


     ◇


「でもね」


 六花が言う。


「…楽しかった」


「…そうだな」


 尚哉も頷いた。


 珍しく否定しなかった。


「普通に楽しかった」


「出た」


「何が」


「普通」


「便利だからな」


 いつものやり取りだった。


 それだけで少し笑えた。


     ◇


 駅へ向かう道。


 夕方の風が吹く。


 文化祭は終わった。


 昨日までの特別な時間も終わった。


 けれど。


 失くなったものばかりではないらしい。


     ◇


 駅が見えてくる。


 別れ道も近い。


「じゃあまた明日」


 六花が言う。


「ああ」


 尚哉は頷く。


「また明日」


 いつも通りの言葉だった。


     ◇


 尚哉と六花はいつもの別れ道まで来た。


 六花は足を止めて、立ち去る尚哉の背中を見る。


 そして歩き出した。


 文化祭は終わった。


 けれど。


 今日は何故か、安心していた。


 何が安心なのかは、自分でもよく分からなかった。


 白鷺六花は気づかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。