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第55話 橘尚哉は見つけている。

 白鷺六花は割と目立つ。


 美人だから。


 人気者だから。


 優等生だから。


 理由はいくらでもある。


 だけど、最近の尚哉は少し違った。


 目立つから見ているわけじゃない。


 気付くと見てしまう。


 そんな感じだった。


     ◇


「白鷺ー」


 放課後、担任が教室へ顔を出した。


「悪いんだけど、新入生の保護者説明会の案内手伝ってくれないか?」


「はい」


 六花は即答した。


 担任も当然のように頷く。


「助かるよ」


 周囲も特に驚かない。


 白鷺六花なら頼まれる。


 白鷺六花なら引き受ける。


 それが当たり前になっていた。


「先生」


 小春が手を挙げる。


「わたしも手伝います!」


「おー助かる」


「六花ちゃん一人だと大変だし!」


 六花は少しだけ笑った。


「ありがとね」


 小春も満足そうだった。


     ◇


 翌日。


 説明会当日。


 昼休み。


 尚哉は廊下を歩いていた。


 前方から聞こえてくる声。


「こちらになります」


 六花だった。


 保護者を案内している。


 笑顔。


 丁寧な口調。


 いつも通りの六花。


 特に気に留めることでもない。


 そのまま通り過ぎた。


     ◇


 五時間目。


 職員室へ呼ばれた帰り。


「ご質問はございますか?」


 また六花を見かけた。


 今度は何かの説明をしている。


 保護者が何人か集まっている。


 六花は一人一人に丁寧に対応していた。


「……」


 尚哉は少しだけ足を止める。


 別に珍しいことじゃない。


 そう思った。


     ◇


 放課後。


 部活へ向かう生徒たちで校舎は賑わっていた。


 尚哉は昇降口へ向かう途中で再び足を止める。


「ありがとうございました」


 六花だった。


 まだ説明会の対応をしている。


 保護者へ頭を下げている。


 そこでようやく尚哉は気付いた。


「あいつ、今日ずっと喋ってないか?」


 思わず呟く。


 朝から。


 昼も。


 授業の合間も。


 放課後も。


 ずっと誰かと話している。


「ん?」


 隣を歩いていた灰原が聞き返した。


「何が」


「いや」


 尚哉は首を振る。


「別に」


 灰原は気にせず歩いていった。


 尚哉は少し後ろを振り返る。


 六花はまだ笑顔で話していた。


     ◇


 その時。


「っ……」


 小さな咳。


 本当に小さな音だった。


 周囲は誰も気付かない。


 六花自身も誤魔化すように笑っている。


「ありがとうございました」


 少しだけ。


 声が掠れていた。


「……」


 尚哉は眉をひそめる。


 でも。


 だから何だという話だった。


 本人が大丈夫ならそれでいい。


 そう思う。


 思うのだが…。


     ◇


 帰り道。


 尚哉はコンビニへ立ち寄った。


 飲み物を手に取る。


 適当にレジへ向かう。


 その途中。


 ふと棚が目に入った。


 のど飴。可愛らしいパッケージ。


「……」


 数秒眺める。


 そして。


 そのまま通り過ぎた。


     ◇


 レジへ向かう。


 三歩。


 四歩。


 五歩。


「……」


 立ち止まる。


 振り返る。


 そして。


 もう一度棚へ戻った。


     ◇


 会計を終えて店を出る。


 夕暮れ。


 ポケットの中には小さなのど飴。


 尚哉は歩きながら空を見上げた。


「…いや……」


 小さく呟く。


「なんで買ってんだ俺」


 答える人はいない。


 ポケットの中で、


 小さなのど飴がやたらと存在感を主張する。


 橘尚哉は見つけている。

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