↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
53/133

第53話 橘尚哉は気になっている。

 白鷺六花が気になった。


 理由は分からない。


 気になったというより。


 なにか引っ掛かる。


 そんな感覚だった。


     ◇


 昼休み。


 尚哉は弁当を食べながら教室の前方を見る。


「でさー」


「マジで?」


「それ絶対盛ってるでしょ」


 女子たちの笑い声。


 その中に六花がいた。


 いつも通り。


 楽しそうに話している。


 笑っている。


 人気者で優等生の白鷺六花。


 何もおかしいところはない。


 ないはずだった。


「何見てんだ?」


 灰原が声をかけてきた。


「別に」


「白鷺?」


「違う」


「違わないだろ」


 尚哉は無視した。


 灰原は呆れたように笑う。


「相変わらずだな」


「何が」


「おまえ、結構分かりやすいぞ」


「初めて言われた」


「俺は前から言ってる」


「とにかくそんなんじゃない」


「そっか」


     ◇


 その時だった。


「六花ー!」


 女子生徒が駆け寄ってくる。


「ん?」


「ごめん、この資料職員室に持ってってもらっていい?」


「あ、いいよ」


 六花はすぐに頷いた。


「助かるー!」


 女子生徒は満足そうに去っていく。


 だが。


 その直後。


「あ、白鷺さん」


 別の生徒が声をかける。


「これもお願いできる?」


「うん」


「あとこっちも」


「大丈夫だよ」


 六花は笑う。


 断らないし迷わない。


 当たり前のように引き受ける。


 その様子を見ながら。


 尚哉はふと呟いた。


「あいつ、前からあんなだったか?」


「ん?」


 灰原が聞き返す。


「白鷺」


「あんな感じだろ」


「そうか?」


「そうだろ」


 灰原は不思議そうな顔をした。


「むしろ今さら何言ってんだ」


「……」


 尚哉は答えなかった。


 確かにそうかもしれない。


 でも。


 何かが引っ掛かる。


 上手く言葉にできない何かが。


     ◇


 放課後。


 尚哉は一人で教室に残っていた。


 西日が差し込む。


 静かな教室。


 鞄の中からノートを取り出す。


 黒いノート。


 最初に見つけたあの日から。


 何度も開いている。


 何度も読んでいる。


 それでも。


 答えは見つからない。


 尚哉は最初のページを開く。


 そこには相変わらず同じ文字。


【白鷺六花は嘘をついている。】


「……」


 意味が分からない。


 ずっと。


 分からないままだ。


 白鷺六花が嘘をついている。


 何を。


 どうして。


 誰に。


 考えても分からない。


 だが。


 今日の六花を見ていて。


 ほんの少しだけ思った。


 本当に。


 あいつは大丈夫なのだろうか。


     ◇


 教室を出る。


 廊下を歩いていると。


 前方に六花の姿が見えた。


 両手には資料の束。


 結構な量だった。


「おい」


 思わず声をかける。


 六花が振り返った。


「あれ、橘くん」


「それ」


 資料を指差す。


「おまえの仕事か?」


 六花は少しだけ首を傾げた。


「違うけど?」


「違うのかよ」


 思わず言う。


 六花は小さく笑った。


「頼まれただけ」


「なんで引き受けたんだ」


「困ってたから」


 当たり前みたいに答える。


 尚哉は少し黙った。


 六花は不思議そうに見返してくる。


「なに?」


「いや」


 上手く言葉にならなかった。


「別に」


 六花は少しだけ首を傾げる。


 そして。


「じゃあまた明日ね」


 そう言って歩き出した。


 夕日に照らされた背中を見送る。


 その姿が見えなくなるまで、


 尚哉はただそこに立っていた。


     ◇


 帰宅後。


 机の中から例のノートを取り出す。


 尚哉は椅子へ腰掛ける。


 そしてもう一度だけ。


 最初のページを見る。


【白鷺六花は嘘をついている。】


「……なんなんだよ」


 思わず呟く。


 ノートのことなのか。


 白鷺六花のことなのか。


 自分でもよく分からなかった。


 とにかく今、


 橘尚哉は気になっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。