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第48話 橘尚哉は困惑する。

 昼休み。


 いつものように五人で集まっていた。


「だからね!」


 小春が元気よく言う。


「ボウリング大会開催したい!」


「まだ諦めてなかったのか」


 灰原が呆れる。


「諦めたらそこでガター確定だよ!」


「投げてみなきゃわからないだろ」


 玲奈が小さく笑った。


 六花も笑う。


 いつもの光景だった。


 何も変わらない。


 そう見える。


     ◇


「そういえば」


 尚哉が言った。


「この前のぬいぐるみどうした?」


 六花が顔を上げる。


「ああ」


 少しだけ笑った。


「部屋に飾ってるよ」


「そうか」


「うん」


「……」


 会話が終わる。


「……」


「……」


 終わる。


 別におかしくはない。


 なのに。


 尚哉はほんの少し違和感を覚えた。


 前なら。


 もう少し話していた気がする。


 気のせいだろうか。


「その猫かわいかったよねー!」


 小春が割り込んできた。


「私もちょっと欲しかった!」


「お前別のぬいぐるみ持って帰っただろ」


 灰原が言う。


「それとこれとは別なの!」


 話題はそのまま流れていった。


 尚哉の中にだけ、


 小さな引っかかりを残していた。


     ◇


 放課後。


 廊下を歩いていると。


 少し先に六花の姿が見えた。


「あ」


 思わず足を速める。


 別に用事はない。


 ただ。


 なんとなく話そうと思った。


 その時だった。


「白鷺さんー!」


 別のクラスの女子が声を掛ける。


「あ、今行くね!」


 六花が振り返る。


 そして。


 そのままそちらへ走っていった。


 尚哉は足を止める。


「……」


 別に。


 おかしなことじゃない。


 本当に。


 それだけだった。


     ◇


 翌日。


 昼休み。


 また五人で集まる。


 小春が騒ぐ。


 灰原が突っ込む。


 玲奈が笑う。


 六花も笑っている。


 でも。


 尚哉は何度か気付く。


 六花が自分を見る回数が減った気がする。


 目が合わない。


 話しかければ返事は返ってくる。


 笑ってもくれる。


 優しいままだ。


 何も変わらない。


 なのに。


 何かが違った。


     ◇


 帰り道。


 灰原と並んで歩く。


「どうした」


 不意に言われた。


「何が」


「最近ぼーっとしてる」


 灰原が笑う。


「授業中もだし」


「してねえよ」


「してる」


 断言される。


 尚哉はため息を吐く。


「別に何もない」


「そうか?」


「そうだよ」


 しばらく沈黙。


 そして。


 尚哉は何気なく言った。


「ただ」


「ん?」


「最近白鷺が少し変な気がする」


 言った後で。


 自分でも驚いた。


 灰原は少しだけ目を瞬く。


「変?」


「いや」


 上手く説明できない。


「変っていうか」


 言葉を探す。


「前と違うっていうか」


「ふーん」


 灰原はそれ以上聞かなかった。


 ただ。


 少しだけ意味ありげに笑った。


     ◇


 夜。


 六花は自室にいた。


 スマホが震える。


 グループメッセージ。


【小春】

【来月こそボウリングね!】


【灰原】

【まだ言ってる】


【玲奈】

【ふふ……】


 六花も小さく笑う。


 そして返信する。


【六花】

【楽しそうだね】


 送信。


 しばらくして。


 新しい通知が表示された。


【尚哉】

【多分行くことになるな】


 その一文を見つめる。


「……」


 一瞬。


 本当に少しだけ口元が緩んだ。


 けれど。


 それ以上は何もしない。


 スマホの画面を閉じる。


 机の上には猫のぬいぐるみ。


 あの日取ってもらったもの。


 六花は視線を逸らした。


 そして静かにベッドへ横になる。


 部屋は静かだった。


 目を閉じる。


 何も考えない。


 考えないようにする。


 それでも。


 胸の奥の痛みは消えなかった。

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