第47話 橘尚哉はちょっと気になる。
昼休み。
教室はいつも通り騒がしかった。
「だからね!」
小春が机を叩く。
「絶対ボウリング行こうよ!」
「まだ言ってるのか」
灰原が呆れた。
「だって行きたいんだもん!」
「理由が小学生なんだよ」
「ボウリングに行きたい女子高生だよ!」
玲奈が小さく笑う。
六花も笑う。
いつもの光景だった。
尚哉も聞いている。
聞いているはずだった。
なのに。
気付くと。
六花を見ていた。
笑っている。
小春の話を聞いている。
ただそれだけ。
「橘くん聞いてる〜?」
「ん?」
小春の声で我に返る。
「聞いてる?」
「聞いてる」
「絶対聞いてな〜い」
「聞いてたって」
「じゃあ今何の話してた?」
「……ボウリング?」
「それはずっとだよ!」
図星だった。
灰原が吹き出す。
玲奈も笑う。
六花も笑った。
尚哉は少しだけ気まずそうに頭をかいた。
◇
授業中。
ノートを取る。
先生の話を聞く。
いつもの授業。
そのはずなのに。
ふと。
土曜日のことを思い出した。
ゲームセンター。
猫のぬいぐるみ。
そして。
『やったやったー!』
六花の声。
あんな風に喜ぶのは珍しい気がする。
思わず笑ってしまう。
すると。
「橘」
「はい」
先生の声。
慌てて顔を上げる。
「随分楽しそうだな」
教室が少し笑った。
「いや別に」
「授業聞けよ」
「はい」
尚哉は咳払いをした。
そして。
もう一度ノートへ視線を落とす。
……いや。
何考えてるんだ。
自分で少し呆れた。
◇
放課後。
帰り支度をしていると。
「六花ちゃんー!」
小春が声を上げた。
「ちょっと職員室付き合ってー!」
「あ、うん」
六花が頷く。
そして。
鞄を持った。
「それじゃ」
小さく笑う。
「またね」
そのまま小春と一緒に教室を出ていった。
尚哉は少しだけ首を傾げる。
いつもなら。
『また明日』
だった気がする。
気のせいだろうか。
別に。
大した違いじゃない。
そう思った。
◇
翌日。
昼休み。
五人で話している。
小春が騒ぐ。
灰原が突っ込む。
玲奈が笑う。
いつもの時間。
でも。
六花は少しだけ静かだった。
笑っている。
ちゃんと笑っている。
だけど。
どこか遠い。
そんな気がした。
「白鷺?」
思わず呼ぶ。
「え?」
六花が顔を上げた。
「どうした?」
「いや」
尚哉は言葉に詰まる。
自分でも何を聞こうとしたのか分からない。
「なんでもない」
「変なの」
六花が笑った。
いつもの笑顔。
なのに。
なぜだろう。
少しだけ安心できなかった。
◇
帰り道。
一人で歩く。
夕暮れ。
いつもの道。
スマホが震える。
何気なく画面を見る。
特に用事はない。
そのまま指が動く。
開いたのは、
土曜日の買い出しで使った連絡履歴だった。
『土曜日で大丈夫?』
『ああ』
『駅前でいいかな』
『いいぞ』
短い会話。
本当にそれだけ。
「……」
尚哉はしばらく画面を見る。
そして。
我に返った。
「何やってんだ俺」
思わず呟く。
自分でもよく分からなかった。
最近。
白鷺のことを考えることが増えた気がする。
理由は分からない。
別に変な意味じゃない。
……多分。
尚哉はスマホをしまった。
夕暮れの空を見上げる。
そして小さく息を吐いた。
胸の奥に残る違和感の正体は、
まだ分からなかった。




