第44話 白鷺六花は引き受けている。
放課後。
ホームルームも終わり、
帰り支度を始める生徒たちで教室は騒がしかった。
その時だった。
「ちょっといいか」
担任が教壇を軽く叩く。
教室の視線が集まった。
「来週の学年行事で使う備品の買い出しがあるんだが」
先生は少し困ったような顔をした。
「手伝ってくれる人いないか?」
一瞬。
教室が静かになる。
誰も目を合わせない。
誰かやってくれないかな。
そんな空気だった。
そして。
「私やります」
六花が手を挙げた。
やっぱりな。
尚哉は思った。
「助かる」
先生が言う。
六花は笑って頷いた。
「大丈夫です」
◇
「六花ちゃんまたやってる〜」
小春が机に突っ伏した。
「だって誰もやらないし」
「そういう問題じゃないのだよ〜」
なぜか偉そうだった。
灰原も苦笑する。
「たまには断れよ」
「大丈夫だって」
六花は笑う。
その言葉に。
尚哉は少しだけ眉をひそめた。
最近。
その言葉をよく聞く気がする。
「何買うんだ?」
尚哉が聞く。
六花は先生から渡された紙を見る。
「文房具とか、掲示用の材料とか」
「…結構あるな」
「うん」
六花は頷く。
「でも平気だよ」
そう言ってまた笑った。
◇
その後。
先生から詳しい説明を聞く。
学年で使う掲示物の材料。
文房具。
倉庫へ運ぶ荷物。
思っていたより量が多かった。
「……いや」
尚哉が言う。
「これ一人じゃ無理だろ」
「え?」
六花が目を瞬く。
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないだろ」
紙を見ながら言う。
「荷物持つだけでも結構あるぞ」
「そうかな?」
「そうだよ」
先生も苦笑する。
「確かに少し多いかもな」
「ですよね」
尚哉は頷いた。
六花は少し困ったように笑う。
「でも誰かに頼むのも悪いし」
「大変なんだから別に悪くないだろ」
「そうかな」
「そうだよ」
同じ会話をしている気がした。
◇
「じゃあ橘」
先生が言う。
「手伝ってやってくれ」
「え?」
今度は尚哉が固まった。
「いや別に俺は」
「言い出したの橘だろ」
先生が笑う。
「確かに」
灰原が頷く。
「確かにじゃねえ」
「頑張れ〜」
小春が手を振った。
「二人でデートだ〜」
「違うだろ」
即座に否定する。
「単なる買い出しだ」
「真面目かよ〜」
「うるさい」
煽られてちょっと赤くなっている尚哉の様子に、教室の中で笑いが広がった。
六花も困ったように笑っていた。
◇
「それじゃ」
六花が言う。
「土曜日で大丈夫?」
「ああ」
「駅前でいいかな」
「いいぞ」
待ち合わせを決める。
それだけだった。
本当にそれだけ。
特別な約束でもない。
遊びに行くわけでもない。
ただの買い出し。
そのはずだった。
◇
帰宅後。
六花は机の前に座っていた。
スマホを見る。
待ち合わせの時間。
駅前。
土曜日。
橘くん。
「……」
少しだけ。
口元が緩む。
今日のことを思い出す。
小春。
灰原。
玲奈。
尚哉。
みんなで笑った。
楽しかった。
最近はそんな日が増えている。
「……」
六花は視線を落とした。
そして。
小さく首を振る。
「だめだよ」
誰に言うでもなく呟く。
静かな部屋に、
その声が小さく残った。




