第43話 灰原陸は見守っている。
昼休み。
教室はいつも通り騒がしかった。
「ねーねー!」
小春の声が響く。
「今度さ、みんなでボウリング行こうよ〜」
「また増えた」
尚哉が言う。
「この前遊んだばっかだろ」
「この前はこの前だよ〜」
「はいはいまた今度な」
灰原が呆れる。
玲奈が小さく笑った。
六花も笑う。
いつもの光景だった。
灰原はジュースを飲みながら眺める。
こうしていると、
最近の玲奈は本当によく笑うようになったと思う。
尚哉と六花が先に仲良くなったみたいだが、とてもおとなしい印象しかなかった。
小春は相変わらず。
六花もいつも通り。
そう思っていた。
◇
「それでさ〜」
小春が話を続ける。
「一色さんってボウリングやったことある?」
「あります……」
「えっ、ほんと!?」
「そんな驚くことか?」
尚哉が突っ込む。
玲奈が少し困ったように笑った。
その時だった。
ふと。
六花が黙る。
会話が終わったわけではない。
ただ一瞬だけ。
窓の外へ視線を向ける。
それだけ。
ほんの数秒。
その瞬間。
尚哉が六花を見た。
「……?」
灰原は目を瞬く。
だがすぐに。
「六花ちゃん聞いてる?」
小春が声を掛ける。
「あ、ごめんごめん」
六花は笑った。
いつもの笑顔。
尚哉も視線を戻す。
会話は何事もなかったように続いた。
灰原はジュースを飲む。
なるほど。
と思った。
◇
放課後。
灰原と尚哉は並んで歩いていた。
夕方の通学路。
特に目的もなく。
なんとなく一緒に帰っている。
「そういや」
灰原が言う。
「小春、今度はボウリングだってよ」
「元気だな」
「体力無限説ある」
「それは否定できない」
二人で少し笑う。
しばらく歩く。
そして。
灰原はふと思い出したように言った。
「橘」
「ん?」
「最近さ」
「なんだよ」
「白鷺のこと気にしてる?」
一瞬。
尚哉の足が止まる。
「は?」
「いやだから」
灰原は肩をすくめる。
「最近なんか見てるなーって」
「別に」
「そうか?」
「そうだよ」
尚哉は少し眉をひそめる。
「なんでそんな話になるんだ」
「いや、なんとなく」
「適当だな」
「小春ほどじゃないぜ」
それには少しだけ笑った。
「比べる相手がおかしいだろ」
「確かにな」
灰原も笑う。
そのまま話は終わった。
それ以上は聞かない。
聞く必要もないと思った。
◇
別れ道。
「じゃあな」
「またな」
尚哉が手を上げる。
灰原も軽く返した。
そして背中を見送る。
少しだけ考える。
最近の六花は少し変だ。
それは灰原も気になる時がある。
だけど。
尚哉も気付いているのだろう。
多分。
小春も。
一色も。
それぞれ何かを感じている。
だから。
今はまだいい。
友達だから。
無理に踏み込むことだけが正解じゃない。
必要になったら手を貸す。
今はそのくらいでいい。
灰原は小さく笑った。
「ま、見守るくらいはしてやるか」
夕暮れの風が吹く。
灰原陸はゆっくりと帰路についた。




