第41話 橘尚哉は気にかけている。
翌朝。
教室はいつも通りだった。
ホームルーム前の騒がしさ。
誰かの笑い声。
机を動かす音。
特に変わったことはない。
そのはずだった。
「六花ちゃんー!」
小春の声が響く。
「見て見て〜!」
「なに?」
六花が笑う。
「昨日の写真また見てた!」
「朝から?」
「朝から!」
「好きだねぇ」
「だって楽しかったもん!」
小春は満面の笑みだった。
六花も笑う。
本当にいつも通りだった。
尚哉はその様子を眺める。
何もおかしくない。
そう思う。
なのに。
なぜだろう。
少しだけ引っかかる。
◇
授業の合間。
六花はいつものように頼まれごとを引き受けていた。
「白鷺さん、これお願いしてもいい?」
「うん」
「こっちも」
「いいよ」
迷いがない。
断る様子もない。
それもいつも通りだった。
「相変わらずだな」
尚哉が呟く。
「何が?」
灰原が聞いた。
「いや」
説明しようとして。
やめた。
自分でも何が引っかかっているのか分からない。
「変なやつ」
灰原が笑った。
尚哉も適当に流した。
◇
昼休み。
今日は玲奈も来ていた。
隣のクラスから顔を出し、
自然に輪へ加わる。
少し前なら考えられなかったことだった。
「またみんなで遊びたいねー!」
小春が言う。
「まだ昨日の事だろ」
灰原が呆れる。
「だからだよ!」
「意味分からん」
玲奈が小さく笑った。
六花も笑う。
尚哉も少しだけ口元を緩めた。
その時だった。
ふと。
六花が窓の外を見た。
ほんの数秒。
それだけだった。
笑顔が消える。
何かを考えているような。
どこか遠くを見ているような。
そんな顔。
「……?」
尚哉は思わず見てしまう。
だが次の瞬間。
「六花ちゃん?聞いてる?」
小春の声。
「あ、ごめんごめん」
六花は笑った。
いつものように。
何事もなかったように。
気のせい。
そう言われればそれまでだった。
◇
放課後。
帰り支度を終える。
「じゃあねー!」
小春が手を振る。
「また明日!」
灰原も続く。
「じゃあな」
尚哉は軽く手を上げた。
玲奈も頭を下げる。
「失礼します」
四人がそれぞれ帰っていく。
気付けば。
六花と二人だけになっていた。
「あ」
六花が顔を上げる。
「橘くん」
「ん?」
「また明日」
笑顔だった。
「ああ」
尚哉も返す。
六花は手を振る。
そしてそのまま廊下の向こうへ歩いていった。
いつも通り。
本当にいつも通りだった。
なのに。
尚哉はしばらくその背中を見ていた。
最近。
白鷺のことを見ている気がする。
別に理由はない。
何かあったわけでもない。
むしろ何もない。
だから気のせいなのかもしれない。
疲れているだけかもしれない。
考えすぎかもしれない。
それでも。
なんとなく気になった。
なんとなく心配だった。
気のせいなら。
それが一番いい。
尚哉は小さく息を吐いた。
そして帰路についた。




