第40話 白鷺六花はまだ眠れない。
深夜。
時計の針は午前一時を回っていた。
部屋は静かだった。
窓の外から聞こえるのは遠くを走る車の音だけ。
白鷺六花はベッドの上で目を開けていた。
眠れない。
別に嫌なことがあったわけじゃない。
むしろ逆だった。
今日は楽しかった。
本当に。
小春が騒いで。
灰原が笑って。
玲奈も笑っていて。
尚哉も楽しそうだった。
順番に思い出す。
洋服屋。
雑貨屋。
ゲームセンター。
写真スタジオ。
どれもこれも楽しかった。
思わず口元が緩んでしまう。
六花は布団の中で小さく息を吐いた。
そして目を閉じる。
眠ろうとする。
けれど。
眠れない。
◇
スマホが小さく震えた。
六花は手を伸ばす。
画面を見る。
小春からだった。
⸻
【みんな今日はありがとイェーイ!】
【めちゃくちゃ楽しかったぜー!】
【写真もらったから送るねー!】
⸻
その下に何枚か画像が並んでいた。
六花は一枚開く。
写真スタジオで撮った写真。
五人が並んでいる。
小春が笑っている。
灰原も笑っている。
玲奈も少し照れながら笑っている。
尚哉は少し困ったような顔をしていた。
そして。
自分も笑っていた。
「……」
しばらく見つめる。
自然と口元が緩んだ。
本当に。
本当に楽しかった。
スマホを胸の上に置く。
天井を見上げる。
眠れない。
◇
しばらくして。
六花はベッドから起き上がった。
机へ向かう。
引き出しを開ける。
中には一冊のノートが入っていた。
静かに取り出す。
表紙を指でなぞる。
何も書かれていない。
ただのノート。
六花はしばらくそれを見つめていた。
そして。
開かない。
そのまま引き出しへ戻した。
小さく息を吐く。
部屋は静かだった。
◇
再びベッドへ戻る。
時計を見る。
午前二時。
目を閉じる。
今日のことを思い出す。
小春が伊達メガネをかけていた。
灰原が呆れていた。
一色さんが笑っていた。
尚哉が無理やり試着室へ押し込まれていた。
みんなで写真を撮った。
みんな笑っていた。
楽しかった。
本当に。
六花は布団を少しだけ握る。
目を閉じたまま。
小さく息を吐いた。
眠れない。
どうしてなのか。
考えない。
考えたくなかった。
ただ。
今日が楽しかったことだけは確かだった。
だから。
少しだけ怖かった。
時計の針だけが静かに進んでいく。
夜はまだ終わらない。
白鷺六花はまだ眠れない。




