第30話 花火は夜空に咲かない。
後夜祭の時間が近付いていた。
文化祭は大成功。
校内には達成感が漂っている。
来場者も徐々に帰り始め、
残っているのは生徒達が中心だった。
みんな楽しそうだった。
◇
「まだかな〜?」
小春が言う。
「何がだよ」
尚哉が聞く。
「花火〜」
「あと少しだろ」
「待てない〜」
「子供か」
「文化祭の日くらい子供でもいいじゃん〜」
意味不明だった。
玲奈が思わず笑う。
「確かに今日くらいは良いかもしれませんね」
「玲奈ちゃんが優しい〜」
小春が感動したような顔をする。
「普段から優しいだろ」
尚哉が言う。
「橘くんはちょー厳しい〜」
また周囲が笑った。
本当に。
平和なひとときだ。
◇
校庭には多くの生徒が集まっていた。
後夜祭。
文化祭最後のイベント。
みんな、空を見上げている。
打ち上げ花火を待っていた。
玲奈も少しだけ楽しそうだった。
「花火なんて、久しぶりです」
「そうなの?」
六花が聞く。
「はい」
玲奈は頷く。
「とても楽しみです」
柔らかく微笑む玲奈。
六花も微笑む。
「そっか」
嬉しい。
本当にそう思う。
だけど。
…だけど。
◇
時計を見る。
午後六時。
もうすぐ始まる。
六花は無意識に校舎の方へ視線を向けた。
何もなかった。
予定通り。
文化祭は終わった。
問題も起きなかった。
なら。
もしかしたら大丈夫なのかもしれない。
そう思おうとする。
だが。
心が納得しなかった。
◇
尚哉も空を見上げていた。
花火。
後夜祭。
文化祭の締めくくり。
まぁ、悪くないな。
そんなことを考える。
そして。
ふと。
あの文字を思い出した。
【彼は今回も死ぬ。】
「……」
小さく眉をひそめる。
だが。
すぐに頭を振った。
俺、考えすぎだ。
今日一日。
特別な事は何も起きなかった。
もう…大丈夫だろう。
◇
校庭にアナウンスが流れる。
『これより後夜祭を開始します』
歓声が上がった。
拍手が起きる。
みんな空を見る。
小春も。
玲奈も。
尚哉も。
六花も。
夜空を見上げていた。
花火が上がる。
夜空を彩り、いつか思い出になる。
◇
だが。
…上がらない。
◇
「あれ?」
誰かが言った。
数秒の沈黙。
生徒達も首を傾げる。
「まだじゃない?」
「カウントダウンとかあるんじゃね?」
「そういう演出でしょ」
そんな声が聞こえる。
誰も深くは気にしていなかった。
◇
十分後。
それでも花火は上がらなかった。
ざわつきが広がる。
教師達が動いている。
実行委員達も集まり始めていた。
「何かあったのかな」
玲奈が呟く。
「トラブルじゃね?」
尚哉が言う。
だが。
六花は嫌な予感しかしなかった。
心臓が嫌な音を立てる。
何かがおかしい。
何かが始まっている。
そんな予感がした。
◇
その時だった。
「……あれ」
誰かが言う。
全員の視線が動く。
校舎の方だった。
二階。
教室が並ぶ辺り。
そこから。
黒い煙が立ち上っていた。
◇
一瞬。
誰も理解できなかった。
何が起きているのか。
それが何なのか。
理解が追い付かない。
そして。
次の瞬間。
誰かが叫んだ。
「火事だ!!」
悲鳴が上がる。
ざわめきが広がる。
文化祭最後の夜は。
その一言で終わった。
花火は夜空に咲かない。




