第28話 白鷺六花は楽しめない。
文化祭当日がやってきた。
朝から校内は、来場者と生徒達で大変な賑わいをみせる。
生徒達の声。
来場者の声。
校内放送。
いつもの学校とはまるで違う。
活気あふれる文化祭が始まろうとしている。
◇
「ぶ、ぶ、文化祭だあああ〜!」
小春が両手を突き上げる。
「朝からやたら元気だな」
尚哉が呆れる。
「今日は特別だから!」
「落ち着きないのはいつも通りだな」
「ひどい!」
小春が抗議する。
周囲が笑う。
六花も笑っていた。
その笑顔の裏で、
胸の奥のざわざわした気分が晴れる事はなかった。
◇
開会式が終わる。
遂に文化祭が始まった。
廊下には来場者が行き交う。
模擬店には行列。
展示にも人が集まっている。
「すごい人ですね……」
玲奈が呟いた。
「でしょ〜?」
小春が何故か得意げになる。
「お前の文化祭じゃないだろ」
尚哉が言う。
「細かいことは気にしないの!」
玲奈が少し笑った。
その笑顔を見て。
六花は少しだけ嬉しくなる。
本当に。
玲奈は変わった。
前を向けるようになった。
それは間違いない。
◇
「一色さん」
六花が声をかける。
「はい?」
「楽しそうだね」
玲奈は少し照れながら頷いた。
「はい、楽しいです」
その言葉に嘘はなかった。
「来て良かったです」
玲奈は笑う。
六花も笑った。
「そっか」
嬉しい。
本当に。
嬉しいはずだった。
なのに。
胸の奥が少しだけ痛んだ。
◇
昼過ぎ。
尚哉達は校内を回っていた。
展示を見る。
模擬店を回る。
他愛もない時間。
「ねーねークレープ食べようよ〜」
小春が言う。
「さっき食ってなかったか?」
「クレープは別腹!」
「便利な言葉だな」
「別腹サイコー!」
灰原なら笑いそうだな。
ふと。
尚哉はそう思った。
「そういや灰原は?」
「ふれあい動物企画じゃない?」
六花が答える。
「忙しそうだもんね」
玲奈も頷く。
尚哉は何となく校舎の方を見る。
そして。
ふいに、あの文字を思い出した。
【彼は今回も死ぬ。】
胸の奥が少しだけざわつく。
だが。
すぐに首を振った。
いや、大丈夫だ。
きっと。
◇
その頃。
灰原は来場者に囲まれていた。
「可愛い〜!」
「触ってもいいですか?」
「大丈夫ですよ」
笑顔で答える。
三匹の子猫は人気者だった。
子供達も集まっている。
予想以上に忙しい。
だがそれは、
割と嫌なことではなかった。
「灰原君、楽しそうだね」
実行委員の女子が言う。
「そう見えるか?」
「見える見える」
灰原は少しだけ笑った。
「まあ、悪くないよな」
◇
夕方が近付く。
文化祭は大成功だった。
大きな問題も無い。
来場者も多数。
みんなそれぞれ楽しみ、笑っている。
尚哉も。
玲奈も。
小春も。
灰原も。
だけど。
六花だけは違った。
時計を見る。
また見る。
何度も見る。
落ち着かない。
理由は分かっている。
文化祭が終わる。
その先に何が待っているのか。
六花は知っている。
いや。
正確には知らない。
だけど。
良くないことが起きることだけは知っていた。
◇
空が少しずつ赤く染まっていく。
後夜祭まであと少し。
校内放送が流れる。
楽しそうな声。
笑い声。
文化祭はまだ終わらない。
なのに。
六花だけは。
始まってしまったような気がしていた。
白鷺六花は楽しめない。




