第27話 灰原陸はまだ本当のことを言わない。
文化祭前日。
校内はいつも以上に慌ただしかった。
最終確認。
備品搬入。
飾り付け。
あちこちで生徒達が動き回っている。
ほのかな高揚感が生徒達の間に流れていた。
◇
「いよいよ明日だね〜!」
小春が言った。
「毎日聞いてる気がする」
尚哉が言う。
「だっていよいよなんだもん〜!」
「昨日もいよいよ言ってたぞ」
「昨日はいよいよ前日じゃなかったし!」
「意味が分からん」
教室に笑いが広がる。
六花も笑った。
手伝いに来た玲奈も笑っている。
そんな文化祭前日の空気だった。
◇
放課後。
最終確認が行われていた。
ふれあい動物企画。
譲渡会。
後夜祭。
実行委員達が慌ただしく動いている。
「灰原」
教師が呼んだ。
「はい」
「明日の搬入も頼むな」
「了解です」
「本当に助かる」
教師は安心したように頷いた。
「将来も動物関係に進むなら安心だな」
一瞬だった。
本当に一瞬。
灰原の動きが止まる。
だが。
すぐに笑った。
「どうですかね」
「違うのか?」
「さあ」
それ以上は答えない。
教師も深くは聞かなかった。
◇
その様子を。
尚哉は少し離れた場所から見ていた。
まただ。
そう思う。
将来の話になると。
灰原はいつも同じだった。
否定もしない。
肯定もしない。
ただ。
話を終わらせる。
◇
帰り道。
尚哉と灰原は並んで歩いていた。
「なあ」
尚哉が言う。
「ん?」
「おまえ、やりたいこととか無いのか」
灰原は少し考えた。
「無いわけじゃない」
尚哉は少し驚く。
初めて聞いた気がした。
「じゃあ何だよ」
「別に」
灰原は前を向いたまま答える。
「大した話じゃねえよ」
「またそれか」
「またそれだ」
灰原は笑った。
いつものように。
だけど。
どこか誤魔化しているようにも見えた。
◇
別れ際。
「明日早いんだろ」
尚哉が言う。
「ああ」
「動物の搬入だっけ」
「そう」
「寝坊すんなよ」
「お前にだけは言われたくないんだが」
灰原が笑う。
尚哉も笑った。
それだけだった。
いつもの帰り道。
いつもの会話。
いつもの灰原。
◇
その夜。
灰原は文化祭の最終段取り表を見ていた。
何度も何度も見ている内容。
文化祭、譲渡会、参加する猫達。
スマホを取り出し、写真を開く。
「……」
灰原はしばらくそれを眺める。
それから。
スマホを閉じた。
「ま、明日だな」
小さく呟く。
誰もいない部屋。
返事はない。
灰原はそのままベッドへ倒れ込む。
そして。
考えることをやめるように目を閉じた。
灰原陸はまだ本当のことを言わない。




