第26話 橘尚哉は安心している。
文化祭の準備は最終段階に入っていた。
完成したポスター。
飾り付けられた廊下。
忙しそうに走り回る生徒達。
小さな問題もありながら、なんとか当日を迎えられそうな見通しが立ってきた。
◇
「文化祭楽しみだね〜」
小春が言った。
「お前毎日言ってるな」
尚哉が言う。
「だって楽しみなんだもん〜」
「その割に準備終わってなかっただろ」
「わたしの担当は終わったよ!」
胸を張る。
「みんなが手伝ってくれたおかげで!」
「他力本願じゃねえか」
「ちっちっち、それはチームワークと言うのだよ橘くん〜」
教室に笑いが広がった。
六花も笑う。
玲奈も笑う。
灰原も笑う。
いつもの光景だった。
◇
昼休み。
図書室。
玲奈は本を読んでいる。
だが。
以前ほど本に隠れてはいなかった。
六花と話し。
尚哉とも話す。
時々は自分から話題を出す。
そんな姿も珍しくなくなっていた。
「文化祭、わたし楽しみです」
玲奈が言う。
「また言ってる」
尚哉が笑う。
「だって本当に楽しみなんです」
玲奈も少し笑った。
その様子を見ながら。
尚哉は思う。
良かった。
本当に。
あの時。
動いて良かった。
◇
放課後。
文化祭実行委員の打ち合わせが行われていた。
灰原も参加している。
「猫の搬入は朝七時半で大丈夫か?」
「大丈夫です」
「譲渡会の準備も問題ないな?」
「多分」
「多分じゃ困るんだけど」
「じゃあ大丈夫です」
教師がため息を吐く。
周囲が笑った。
灰原も笑う。
忙しそうだった。
だけど元気だった。
少なくとも。
何かが起きそうには見えない。
◇
帰り際。
尚哉は一人で歩いていた。
空を見上げる。
綺麗な夕焼けだった。
玲奈は前を向いている。
文化祭準備も順調。
灰原も元気。
六花も笑っている。
問題なんて何もないように見えた。
未来は変えられる。
それはもう証明されている。
玲奈の時みたいに。
看板の時みたいに。
だから。
大丈夫。
◇
夜になった。
尚哉は例のノートを開いた。
最後のページ。
そこには相変わらず文字があった。
【彼は今回も死ぬ。】
消えていない。
変わってもいない。
それでも。
尚哉は前ほど不安を感じなかった。
玲奈の未来は変わった。
看板の未来も変わった。
なら。
これだって変えられるはずだ。
「何とかなるだろ」
小さく呟く。
根拠はない。
だけど。
希望ならあった。
尚哉はノートを閉じる。
文化祭はもうすぐだ。
きっと大丈夫。
そう思っていた。
橘尚哉は安心している。




