第25話 灰原陸は諦めない。
文化祭まであと数日。
準備もいよいよ大詰めだった。
校内のあちこちで作業が続いている。
誰もが忙しい。
普段と違うその時間を楽しんでいた。
◇
「終わらないよ〜……」
小春が机に突っ伏した。
「またか」
尚哉が呆れながら言う。
「まただよ〜……」
「自信満々に言うな」
「だって終わらないんだもん〜」
目の前には大量の案内用ポスター。
まだ半分も終わっていない。
「お前今日何してたんだよ」
「めっちゃ頑張ってた!」
「答えになってないぞ」
教室に笑いが起きる。
六花も笑った。
玲奈も少しだけ肩を震わせている。
◇
一方その頃。
灰原はふれあい動物企画の準備室にいた。
「……あれ?」
資料を見ていた灰原が眉をひそめる。
数秒後。
「マジかよ」
小さく呟いた。
案内用の掲示物が足りなかった。
譲渡会用の注意事項。
来場者向けの説明。
本来掲示する予定だった物がいくつか不足している。
「どうする?」
実行委員の男子が聞く。
「どうするも何も」
灰原は頭をかいた。
「作るしかねえだろ」
「今から?」
「今から」
男子生徒は露骨に嫌そうな顔をした。
◇
「いや無理だろ」
「時間ないぞ」
「明日で良くね?」
そんな声が上がる。
灰原は少し黙った。
それから。
「ダメだろ」
と答えた。
「なんで」
「来る人に内容を説明するための物なんだから」
当然のように言う。
「無い方が困る」
「でもなぁ」
灰原はため息を吐いた。
「じゃあ俺がやる」
そう言った。
◇
夕方。
尚哉が準備室を覗くと。
灰原はまだ残っていた。
「何やってんだ」
「掲示物作り」
「まだやってたのか」
「まだやってる」
即答だった。
机の上には紙が広がっている。
「明日でも良いだろ」
尚哉が言う。
灰原は首を振った。
「今日やれることは今日やる」
「真面目か」
「面倒だから終わらせたいだけだ」
灰原は言う。
だけど。
尚哉には分かる。
それだけじゃない。
◇
「手伝おうか?」
後ろから声がした。
六花だった。
玲奈もいる。
「わたしも手伝います」
玲奈が言う。
「そのために来たからな」
尚哉も椅子を引いた。
「え?」
灰原が目を瞬く。
「なんだよその顔」
「いや」
少しだけ笑う。
「助かるよ」
珍しく素直だった。
◇
作業は思ったより早く終わった。
時計を見る。
もう日は沈みかけている。
「終わった〜!」
小春が最後の一枚を掲げた。
「お前…いつからいたんだ」
尚哉が聞く。
「途中から〜」
「知ってる」
教室に笑いが広がる。
灰原も笑った。
疲れているはずなのに。
みんな満足そうだった。
◇
帰り道。
尚哉と灰原は並んで歩いていた。
「あそこまでやる必要あったのか?」
尚哉が聞く。
灰原は少し考えた。
「どうだろうな」
そして。
小さく笑う。
「でも中途半端なの嫌なんだよ」
その言葉は。
妙に納得できた。
灰原らしいと思った。
ふと。
尚哉の頭をあの文字がよぎる。
【彼は今回も死ぬ。】
灰原を見る。
やっぱり気になる。
だけど。
まだ分からない。
「ま、終わったからいいだろ」
灰原は前を向く。
その足取りは軽かった。
灰原陸は諦めない。




