第24話 白鷺六花は笑えない。
文化祭まであと僅か。
校内はどこか浮き足立っていた。
廊下には完成したポスターが並び始めている。
教室でも飾り付けが進む。
放課後になれば。
あちこちから笑い声が聞こえてきた。
文化祭が近付いていた。
◇
「見て見て〜」
小春が段ボールを掲げる。
「完成〜!」
「何だそれ」
尚哉が聞く。
「看板!」
「雑だな…」
「味があると言ってほしい〜」
小春が抗議する。
六花は思わず笑った。
周囲も笑う。
教室は賑やかだった。
楽しい空気だった。
六花も笑っていた。
ちゃんと。
いつものように。
◇
昼休み。
図書室。
いつもの席だった。
「文化祭…楽しみです」
玲奈が言う。
少し照れながら。
だけど。
前よりずっと自然に。
「一色さん変わったよね」
六花が言う。
「そ、そうですか?」
「うん」
六花は頷く。
「最近すっごく楽しそう」
玲奈は少しだけ困ったように笑った。
「そうかも…しれません」
その答えを聞いて。
六花も笑う。
「そっか」
嬉しかった。
純粋に。
玲奈が前を向けるようになったこと。
なのに、
胸の奥にずっと何かがつかえていた。
◇
放課後。
文化祭準備は続いていた。
灰原もいた。
ケージの確認をしている。
「それ何回目だよ」
尚哉が言う。
「三回目」
「やりすぎだろ」
「当日猫逃げたら終わりだからな」
灰原は真面目に答えた。
「灰原君らしいね」
六花が言う。
「そうか?」
「うん」
灰原は少し照れくさそうに笑った。
その顔を見て。
六花は何も言わなかった。
◇
尚哉はそんな灰原を見ていた。
責任感が強い。
頼られている。
動物のことになると真剣だ。
良い奴だと思う。
だからこそ。
ふと。
あの文字が頭をよぎる。
【彼は今回も死ぬ。】
尚哉は小さく眉をひそめた。
やっぱり気になる。
だけど。
まだ分からない。
◇
帰り道。
六花は一人だった。
空は夕焼けに染まっている。
楽しそうな声が聞こえる。
文化祭の話。
後夜祭の話。
みんな未来の話をしている。
六花は足を止めた。
そして。
小さく息を吐く。
「……」
何も言わない。
言えない。
ただ。
少しだけ俯いた。
◇
夜になった。
六花はスマホを見ていた。
今日撮った写真。
文化祭準備中の教室。
小春が笑っている。
玲奈も笑っている。
灰原もいる。
尚哉もいる。
そして。
自分も写っている。
笑っていた。
ちゃんと。
いつものように。
だけど。
「……」
六花は画面を見つめる。
上手く笑えている。
そう見える。
誰が見ても。
きっと。
だけど。
どうしてだろう。
笑っているはずなのに。
笑えている気がしなかった。
六花は静かにスマホの画面を閉じる。
部屋は暗かった。
白鷺六花は笑えない。




