第23話 一色玲奈は手伝っている。
文化祭まであと少し。
放課後の教室は慌ただしかった。
いよいよ文化祭が近付いている。
そんな空気が満ちていた。
◇
「誰かー画用紙持ってきてー!」
教室の後ろから声が飛ぶ。
「あ、はい」
玲奈は立ち上がった。
倉庫へ向かう。
画用紙を持って戻る。
「ありがとう!」
「いえ…」
小さく頭を下げる。
それだけだった。
だけど。
「本当助かったよ、ありがとね」
玲奈は少しだけ照れてしまう。
◇
少し前の自分なら、
こんなことは出来なかった。
誰かに頼まれる前に目を逸らしていた。
なるべく目立たないようにしていた。
関わらないようにしていた。
その方が楽だったから。
傷付かなくて済んだから。
だけど。
今は少し違う。
◇
昼休み。
図書室。
いつもの席。
六花が本を読んでいる。
玲奈も本を開いていた。
向かいには尚哉。
「そっちのクラスは文化祭の準備どう?」
六花が聞いた。
「忙しいです」
玲奈は答える。
「でも…楽しいです」
言ってから。
少し驚いた。
楽しい。
自分でそう言った。
「良いことじゃん」
尚哉が言う。
「そうだね」
六花も笑った。
玲奈は少しだけ嬉しくなる。
◇
尚哉はそんな玲奈を見ていた。
変わった。
本当に。
最初にあった頃とは別人みたいだった。
前に出るようになった。
よく笑うようになった。
控えめながら自分から話すようになった。
あの日。
図書室で震えていた少女とは違う。
そう思う。
そして。
ふと。
頭の奥を過る。
【彼は今回も死ぬ。】
尚哉は小さく眉をひそめた。
まだ分からない。
誰なのか。
何故なのか。
◇
放課後。
「やば〜」
小春が言った。
「どうしたの?」
六花が聞く。
「ポスターの色塗り終わらないの〜」
「今さら?」
尚哉が呆れる。
「今さらなの〜!」
大問題だった。
「あの、わたし手伝います」
たまたま尚哉のクラスに来ていた玲奈が言う。
一瞬。
周囲が驚く。
玲奈自身も少し驚いていた。
だけど。
もう言葉は出ていた。
「本当?」
小春の顔が明るくなる。
「わたしのクラスの準備は、ほとんど終わりましたし」
「玲奈ちゃんが女神すぎてつらい〜!」
「何だそれ」
尚哉が呟く。
六花が笑った。
玲奈も少し笑った。
◇
気付けば。
教室には何人も集まっていた。
小春。
六花。
玲奈。
尚哉。
灰原までいる。
「あれ?なんでお前までいるんだ」
尚哉が聞く。
「任されたからみんなでやろうぜ」
灰原が答える。
「便利な言葉だな」
「だろ?」
灰原は笑った。
みんなも笑う。
教室に笑い声が広がる。
文化祭前の。
何でもない放課後。
玲奈は思った。
本を読むのは大好き。
でも、こういう時間も
少し…好きかもしれない。
◇
帰り道。
玲奈は一人で歩いていた。
空を見上げる。
夕焼けが綺麗だった。
今日は誰かの役に立てた。
ほんの少しだけでも。
そう思えて嬉しかった。
昔の自分なら。
きっと出来なかった。
玲奈は少しだけ微笑む。
わたし…
前を向けているのかな。
一色玲奈は手伝っている。




