第22話 灰原陸は任される。
文化祭まであと十日。
準備は佳境に入っていた。
放課後の校舎は騒がしい。
教室。
廊下。
体育館。
どこへ行っても準備をしている生徒がいる。
そんな中。
「灰原ー!」
廊下の向こうから声が飛んできた。
「ん?」
「これ確認してくれ!」
「他のやつ空いてるだろ」
文句を言いながら。
灰原は書類を受け取る。
「おねがいしやす、灰原のアニキ」
「同級生な」
そう言いながら目を通し始める。
結局やる。
尚哉は少しだけ呆れた。
◇
「灰原くん」
今度は教師だった。
「譲渡会のレイアウトなんだが」
「あーはい」
「これで問題ないか?」
「…大丈夫だと思います」
「助かる」
教師は安心したように頷く。
そして去っていく。
「またか」
尚哉が言った。
「まただな」
灰原が答える。
「お前便利屋か」
「違うわ」
「でもやってるじゃねえか」
「やらされてるんだよ」
灰原はため息を吐いた。
だが。
どこか慣れているようにも見えた。
◇
教室へ戻る。
すると。
「灰原くん〜」
今度は小春だった。
「たすけて〜」
「今度は何だ」
「ポスターが曲がったの〜」
「それは知らん」
「え〜ひどい〜」
小春が大袈裟に嘆く。
六花が笑った。
玲奈も少し笑っている。
「ほら」
小春がポスターを指差す。
確かに少し傾いていた。
「これ直して〜」
「なんで俺なんだよ」
「なんか器用そうだから〜」
「理由が雑すぎねえか」
そう言いながら。
灰原はポスターを貼り直した。
「ありがと〜」
「おう」
「男前だね〜灰原くん」
「やかましいわ」
即答だった。
◇
翌日。
ふれあい動物企画の準備室。
ケージ。
餌。
案内板。
必要な物が並んでいる。
灰原は一つずつ確認していた。
すると。
実行委員の男子生徒が近付いてくる。
「灰原、悪い」
「ん?」
「当日、猫の搬入手伝えなくなった」
「は?」
「部活の練習試合が急に」
灰原は数秒黙った。
そして。
「分かった」
そう答えた。
「すまん助かる」
「こっちは助かってねえよ」
男子生徒が去った後。
尚哉が聞く。
「…いいのか?」
「良くはない」
「断れよ」
「今さら無理だろ」
灰原は苦笑した。
「もう俺担当みたいなもんだし」
「それ押し付けられてるだけじゃねえの」
「まあな」
否定しない。
「じゃあ断ればいい」
「面倒になる」
灰原は肩を竦めた。
それだけ言った。
だけど。
尚哉には分かった。
それだけじゃない。
多分。
こいつは。
任されたものを放っておけない。
◇
帰り際。
灰原のスマホが鳴った。
画面を見る。
実家からだった。
「もしもし」
少し離れた場所で話している。
内容は聞こえない。
だが。
灰原の表情は真面目だった。
「分かった」
短く答える。
通話が終わる。
「どうした?」
尚哉が聞いた。
「いや、別に」
灰原は言う。
「猫のこと」
それだけだった。
そして。
また歩き出す。
まるで。
最初から自分がやるのが当然だと言うように。
灰原陸は任される。




