↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/133

第20話 白鷺六花は止められない。

 校内は日に日に慌ただしくなっていく。


 放課後になれば。


 教室のあちこちで準備が始まる。


 廊下には段ボール。


 壁にはポスター。


 楽しそうな声が聞こえる。


 みんな文化祭を楽しみにしていた。


 六花も。


 本当ならそうだった。


     ◇


「白鷺ー」


 友人に呼ばれる。


「このポスター手伝ってー」


「はーい」


 六花は笑う。


 筆を受け取る。


 文字を書く。


 色を塗る。


 みんなと話す。


 笑う。


 いつも通り。


 何も変わらない。


 そう見えるように。


     ◇


 昼休み。


 図書室。


 玲奈は本を読んでいる。


 尚哉は向かいの席。


 六花はその隣だった。


「なんか最近楽しそうだね」


 六花が言う。


「そうか?」


 尚哉は顔を上げる。


「そうだよ」


「まあ」


 少しだけ笑う。


「悪くない」


 その顔を見て。


 六花は小さく視線を落とした。


「そっか」


「なんだよ」


「別に」


 六花は笑う。


 いつものように。


 自然に。


 だけど。


 その笑顔は"いつも通り"すぎる。


     ◇


 放課後。


 校庭では文化祭実行委員が準備をしていた。


 灰原も、


 大きな資材を運びながら、誰かと笑っている。


「灰原君、元気だね」


 小春が言った。


「元気だけが取り柄だからな」


 尚哉が答える。


「聞こえてるぞーおまえも手伝えー」


 遠くから灰原の声が飛んでくる。


 周囲が笑う。


 灰原も笑う。


 楽しそうだった。


 本当に。


 楽しそうだった。


 六花はその様子を見つめる。


 何も言わず。


 ただ。


 見つめていた。


     ◇


 帰り道。


 尚哉と二人になった。


「文化祭、楽しみだな」


 尚哉が言う。


「そうだね」


「小春も楽しそうだし」


「うん」


「灰原なんか張り切りすぎだろ」


 思わず笑う。


 六花も笑った。


 だけど。


 その直後だった。


「どうした?」


 尚哉が聞く。


「え?」


「いや」


 少し首を傾げる。


「なんか変な顔してたから」


 一瞬。


 言葉に詰まった。


 変な顔。


 していたかもしれない。


「…気のせいだよ」


 六花は笑う。


「そうか?」


「うん」


 尚哉は納得していない顔だった。


 それでも。


 それ以上は聞かなかった。


     ◇


 今夜も眠れそうにない。


 何度目かも分からない夜だった。


 時計を見る。


 午前二時四十三分。


 目を閉じる。


 眠れない。


 寝返りを打つ。


 眠れない。


 布団を握る。


 眠れない。


「……っ」


 思わず、力が入る。


 シーツが皺になる。


 どうして…


 どうして…


 どうして!


 心の中で繰り返す。


 答えはない。


 何も変わらない。


 何度願っても。


 何度祈っても。


 何度繰り返しても。


 六花は唇を噛んだ。


 そして小さく。


 本当に小さく呟く。


「……お願い…だから…」


 その先は言葉になっていなかった。


 誰にも届かない願いだけが。


 静かな夜に溶けていく。


 白鷺六花は止められない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。