第19話 橘尚哉は自信がある。
文化祭まで二週間。
校内はいつも以上に騒がしかった。
廊下には装飾用の段ボール。
教室にはポスター。
放課後になると、あちこちで準備が始まる。
そんな中。
尚哉は例のノートを開いていた。
昼休み。
図書室。
いつもの席。
玲奈は本を読んでいる。
六花は参考書を開いている。
尚哉はノートを見つめていた。
最後のページ。
そこに新しい文章が増えている。
【文化祭の看板は倒れている。】
「……なんだこれ」
思わず呟く。
「どうしたの?」
六花が顔を上げた。
「いや」
尚哉はノートを閉じる。
「なんでもない」
だが。
気になって仕方がなかった。
◇
放課後。
尚哉は校内を歩いていた。
文化祭準備。
看板。
倒れる。
頭の中で何度も繰り返す。
「看板なぁ……」
文化祭用の大きな立て看板はいくつもある。
どれのことだ。
分からない。
だが。
玲奈の時もそうだった。
分からないからと言って、放置していい理由にはならない。
尚哉は校舎裏へ向かった。
そこには文化祭で使う大型看板が並べられていた。
木材で固定されている。
だが。
「……あ」
一つだけ。
足場が少し浮いている看板があった。
ぐらぐらしている。
風が吹く。
看板が小さく揺れた。
「危なっ」
尚哉は慌てて近付く。
近くにあった木材を使い、応急的に補強した。
数分後。
担当の生徒がやって来る。
「え?」
男子生徒が驚いた。
「これ外れてたぞ」
尚哉が言う。
「マジか」
男子生徒は青ざめた。
「今日の風で倒れてたかも……」
尚哉は何も言わずに聞いていた。
◇
翌日。
昼休み。
図書室。
玲奈は今日も本を読んでいる。
六花は参考書を開いている。
尚哉は向かいの席に座った。
「なんか機嫌良いね」
六花が言う。
「そうか?」
「そうだよ」
尚哉は少しだけ笑った。
「気のせいだ」
「何か良いことあったの?」
「別に」
そう言いながらも。
口元は少し緩んでいた。
六花は不思議そうな顔をする。
「なんか怪しい」
「なんでだよ」
「なんとなく」
六花は笑う。
玲奈も小さく笑った。
それ以上は聞かなかった。
尚哉も話さなかった。
話せるはずがない。
黒いノートのことは。
たとえ話しても、信じてもらえる類いの話ではない。
◇
帰り道。
尚哉は一人で歩いていた。
空を見上げる。
少しだけ気分が軽い。
玲奈を救えた。
そして。
看板も倒れなかった。
二回だ。
二回続けて未来が変わった。
偶然。
そう片付けるのにはあまりに出来すぎている。
尚哉は立ち止まる。
鞄から黒いノートを取り出した。
ページを開く。
そこに書かれた文字。
【彼は今回も死ぬ。】
昨日までとは見え方が違った。
死ぬ未来。
それは決まった未来じゃない。
変えられる未来だ。
玲奈の時みたいに。
看板の時みたいに。
きっと。
尚哉はページを見つめる。
そして。
小さく呟いた。
「これは多分、未来日記みたいなものなんだ」
風が吹く。
ページが揺れる。
だが。
文字は消えない。
変わらない。
尚哉はノートを閉じた。
未来は変えられる。
そう信じられるだけの理由がある。
きっと変えられるはずだ。
橘尚哉は自信がある。




