第18話 灰原陸は笑っている。
放課後のひととき。
教室のあちこちで文化祭準備が進んでいた。
机を運ぶ者。
ポスターを描く者。
買い出しの相談をする者。
いつもより騒がしい。
そんな中。
「お、重っ……!」
大きな段ボールを抱えた灰原が顔をしかめた。
「お前それ何入ってんだよ」
尚哉が呆れたように言う。
「知らん。実行委員室から運べって言われただけだ」
「確認くらいしろよ」
「面倒だろ」
「それで持ってくる方が面倒だろ」
灰原は段ボールを床に置く。
そして肩を回した。
「あー疲れた」
「自業自得すぎて同情できん」
「冷たいな〜橘くん」
「誰の真似だよ」
灰原は笑う。
心底楽しそうだった。
「…お前さ」
尚哉は言う。
「なんだかんだで文化祭好きだろ」
一瞬。
灰原は目を丸くした。
「バレたか」
「見てたらわかる」
「こういうのさ、楽しいじゃん」
灰原は教室を見回す。
「準備してる時が一番面白いまである」
「お祭り野郎だな」
「おうよ」
そう言って笑う。
いつもの灰原だった。
◇
翌日。
昼休み。
図書室。
玲奈は今日も本を読んでいた。
六花はその隣。
尚哉は向かいの席。
最近ではすっかりいつもの光景になっていた。
そこへ。
「おっす」
灰原が現れる。
「珍しいな」
尚哉が言う。
「ちょっと休憩だ」
そう言って椅子に座る。
そしてスマホを取り出した。
「見てくれ」
画面を向ける。
「何これ」
「猫」
「それは見れば分かる」
画面には三匹の子猫が映っていた。
一匹は茶トラ。
一匹はキジトラ。
一匹は白黒のハチワレ。
三匹ともとても小さい。
「か、可愛い……」
玲奈がぽつりと呟いた。
「だろ?」
灰原が得意げになる。
「文化祭で使う子達」
「使うって言い方はどうなんだ」
「ふれあい動物企画な」
灰原は訂正する。
「あと保護猫譲渡会もやるんだ」
「へえ」
尚哉は少し感心した。
「結構本格的なんだな」
「まあな」
「その猫は?」
「うちの病院から借りてきた」
灰原はスマホを見ながら言う。
「文化祭が終わったら連れて帰る」
「大変そうだね」
六花が言う。
「まあな」
灰原は肩を竦めた。
「でも任されたし」
その言葉に。
尚哉は少し引っかかった。
「責任感強いよな、お前」
「そうか?」
「普通、そこまでやるか?」
灰原は少し考えた。
それから。
「任されたなら最後までやるだけだろ」
当たり前のように言った。
尚哉は何も言わない。
玲奈も。
六花も。
少しだけ笑った。
◇
放課後。
文化祭実行委員の打ち合わせが行われていた。
教室には実行委員達が集まっている。
「後夜祭の花火は予定通りです」
男子生徒が言う。
「警備担当はこっちで確認しておきます」
別の男子が答える。
教師も頷く。
文化祭は少しずつ近付いていた。
灰原も真面目な顔で話を聞いている。
普段より少しだけ大人びて見えた。
◇
帰り道。
尚哉と灰原は並んで歩いていた。
「だいぶ忙しそうだな」
尚哉が言う。
「まあな」
灰原は苦笑する。
「文化祭終わったら少しは楽になると思う」
「フラグみたいなこと言うな」
「何のだよ」
灰原が笑う。
「知らん」
尚哉も笑う。
他愛もない会話。
いつもの帰り道。
いつもの灰原。
いつも通りだった。
尚哉は思う。
流石に灰原って事はないんじゃないか。
そんな気がする。
だが。
頭の奥には。
あの文字が残り続けていた。
【彼は今回も死ぬ。】
灰原は笑っている。




