表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/18

1ー9

 鐘の音が夕空に溶ける頃、ルカたちは食堂へと足を運んだ。

 食堂はいつもよりも数段騒がしい。

 少なくとも、席に子供をおとなしく座らせるなんて、男子学生にはなかなか出来ない。


 走り回る子、それを諦めた目で見守る学生。テーブルに上ろうとする子供を必死に押さえる学生。

 子育てに悩む男子学生がひしめく中、ノクスは大人しく椅子に座っていた。


「お、偉いじゃん」


 向かいの席に座るカイが、ノクスを褒める。

 それを聞いて、ルカは鼻高々に「そうでしょう」と言う。


「なんで、ノクスが褒められてるのにルカが嬉しそうなの……」


 アルヴェは呆れてため息をついた。


「全員、静かに」


 セリウスの言葉にピリッとした空気が流れる。

 思わず子供たちも静かになり、食堂は一瞬にして静寂が流れた。


「お前たちも知っての通り、一部の4年生が今、幼くなっている。これは教師であるマルコ・ヴァンデルの失態だ。申し訳ない」


 生徒たちの前で、セリウス先生は素直に謝罪する。

 そして、さらに説明を続けた。


「現在、こちらで調査をした所、元に戻るのは今夜から明朝にかけて。寝ている間になるだろう。元に戻った際、服に締め付けられ窒息する事例が過去に起きている。今晩は必ず本人の服を着せるように」


 セリウス先生は杖でテーブルを叩く。するとテーブルに積んであった紙がパラパラと舞う。

 1枚1枚が生徒の元へ行き渡ったのを見て、セリウス先生はその場を後にした。


「なに書いてるんだ?」


 カイが紙を摘む。裏表にぎっしりと文字が書かれたそれは、どうやら今回の件に関する謝罪と、今後の対策のようだ。


「今日の消灯時間は早いよ」


 アルヴェが指を刺す。

 いつもなら21時には部屋から出ることを禁止とされているが、今日は20時……1時間早い。


「そっか、ノクス先輩……今晩には元に戻るんですね」


 言葉にした途端、じくりと胸の奥が痛む。

 隣に座るノクスに目線を落とす。

 子供の世話は面倒だし、ノクスだって困っているはず。早く元に戻るなら、喜ばしい筈なのに。

 それでも――、ルカの中で言葉に出来ない思いが生まれた。


「ルカは今のノクスの方がいいんだ?」


 意地悪なアルヴェの質問。

 ルカはプクッと頬を膨らます。


「そんな事、言ってません」


 アルヴェの言葉を流し、横にいるノクスの頭を撫でる。

 折角近づけたはずの距離が、また離れると思うと恋しい。

 戻らなくて困るのはノクス。戻らなければいいと思ってしまう自分の我儘に嫌悪する。

 ルカは唇を噛み締める。

 アルヴェは目を伏せて、何も言わずにルカの言葉を流した。


「そう。じゃあ食事にしよう」

「俺とアルヴェで取ってくるから待ってろよ」


 カイが気を利かせて、席を立つ。

 アルヴェはルカに目配せをし、続くように後を追った。


「…………」


 残されたルカは、言葉を失う。

 ノクスも喋らない。

 ――気まずい沈黙が落ちた。

 今の会話をどう思われたか不安で、身を捩る。

 そこに、ルカの同級生が姿を現した。


「ルカ君……」


 エヴァンはメガネを曇らせ、あからさまに落ち込んでいる。

 昼間話した話題がリフレインし、ルカは椅子から立ちがった。


「どうしたの、エヴァン」


 声をかけると、赤い瞳からポロリと涙が落ちる。

 ルカは慌てて駆け寄った。


「ルカ?」

「おい、どうした?」


 夕飯の乗ったプレートを抱え、カイとアルヴェが戻る。

 静かに泣くエヴァンに、3人は顔を見合わせた。





 泣き止んで落ち着いたエヴァンから話を聞く。

 結果として、レポートは既に提出されており、奪還は無理だったということらしい。


「めんどくせぇことになってんな」


 行儀悪く、カイはフォークの先を噛む。話を聞いているだけでムカついたようだ。


「レポートならマルコ先生の、レポートボックスの中だろう」

「あー、鍵がかかったヤツな。中身が先生以外取り出せないと噂の」


 カイとアルヴェは冷静に分析する。

 どんよりとした空気の中で、ノクスはマイペースに熱々のシチューと格闘していた。

 ルカは、エヴァンのレポートを、なんとかしてやれないかと頭を抱える。

 悩み唸るルカを見て、アルヴェは口を開いた。


「レポートやノートの盗難って案外多いんだ」

「ええ……? そうなの?」

「あー、話は聞くな。だからノクス先輩は部屋ではアレだけど、部屋の外ではレポート管理を厳重にしてるぜ。割かし、研究内容によってはそのまま金になるものを扱ってるからな」


 成程と納得する。ならば以前、石に触れようとして拒絶されたのも——。


「いや、部屋でもちゃんと管理してくださいよ」


 納得はしたが、腑に落ちない。思わずツッコミを入れるルカに、カイは「確かになー」と苦笑する。


「話を聞いてくれて、ありがとうございます」


 話すだけ話して落ち着いたのか、エヴァンが席から立ち上がる。咄嗟に引き留めようとしたその腕を、子供の手が掴んできた。


「ノクス……先輩?」

「ルカは隣にいて」


 口の端にシチューをつけて、急に独占欲を見せてくる子供。あまりの可愛さに言葉が詰まる。


「ルカ君、いいよ。今はこんな状況だし。他に方法が無いか考えるから」


 エヴァンは背中を丸めてトボトボと歩いて行った。

 落ち込む背中を見て、カイはアルヴェに目配せをする。


「アルヴェ」

「えー、……いいけど」


 短い会話。2人だけのやり取り。ルカは割って入れない。しかし、2人が何かしらしようとしている事は読める。


(問題が起きなきゃいいけど)


 この2人ならなんとかしてくれるだろう。そんな信頼があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ