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すれ違う足音が、石床に乾いた響きを落としていく。
歓迎会が終わり、談話室から出て行く生徒で人の気配は絶えず、しかし騒がしさは無かった。
その中を一人、ルカがとぼとぼと歩く。その足取りは重く、肩が落ちているのは疲労のせいだけでは無かった。
(結局一人で歓迎会に参加しちゃった)
新入生たちは珍しいものを見るように、ルカの金色眼をのぞき込んでくる。
それもそうだ、一般的には魔眼の類いに入るそれは、人の集まる場では単純に「目立つ」という意味に変わる。
ルカは必死で笑顔を作り、群がる新入生たちの相手をしていた。
頼みの綱のカイやアルヴェは見当たらない。
顔見知りの同級生も、今日は自分の部屋に来た一年生を相手にしており、完全に孤立したルカ。
途中で何度、抜けだそうと思ったか、数え切れない。
(疲れちゃった)
気を抜けばそのまま床に倒れそうだ。
ルカは漸く自室の扉を開け、中を見渡す。
ノクスが一人……自分のベッドの上で書類を積み上げていた。
新しい紙とインクの匂いが部屋で混ざり合っている。
ノクスはルカに目線をよこすこともなく、カリカリとペンの音が部屋に微かに響いていた。
「……はあ」
その背中を見て、ルカはため息を落とす。
別にノクスに参加するなど期待していない。けれど、憎らしさににた感情を覚えてしまう。
気配り屋の自分は、疲弊して今にもベッドに沈みたいというのに。
ルカはふるふると頭を振って、気持ちを切り替えようとした。
そのとき、扉が再び開く。
「ただいま」
軽い声とともに、カイが入ってくる。
その後ろでアルヴェは、眠たそうに欠伸をかみ殺し、ルカを見ると気の抜けた笑みを浮かべた。
「おかえりなさい……」
力なく返す。その様子にカイは首をかしげる。
窓際に準備された椅子に座り、ルカの顔色を伺った。
「疲れました。……精霊の目が珍しいから、じろじろ見られて」
素直な感想に、アルヴェが笑った。
「魔眼持ち、なんて物珍しいよね」
「魔眼を遮断する眼鏡をかけようかな」
「かけたところで、意味がないよ。むしろルカの魔眼は他人に危害を加えないから、どんどん利用するべきだね」
アルヴェの言葉に、ルカは目を伏せる。
分かっているが、納得がいかない。
その様子を見て、アルヴェが優しく微笑みかける。
「ルカは魔眼持ちっていうのもあるけど、親しみやすい空気だから自然と人が寄ってくるだけだよ」
「そう……かなあ」
「そうそう」
疑い深く口をへの字に曲げれば、アルヴェは肩をすくめた。
その軽さに、少しだけ気が抜ける。
「そういえば、カイ先輩とアルヴェ先輩は、先生に怒られてたんですか?」
ルカの問いに、カイは頬杖をついて、息を吐いた。
「あぁ、セリウス先生に説教を食らった」
「せっかく祝ったのにね」
アルヴェはセリウスの説教など堪えていないらしい。ヘラヘラと笑い、口元を袖で隠した。
「でも先生も怒るに怒れないみたいで、面白かったよ」
「イシュレイ先生は大絶賛だったもんな」
アルヴェのくすくすと笑う声が微かに聞こえる。
確かにルカから見ても、あの魔術は面白かった。
光、物理法則、音、すべてを1つの球体に小さく詰め込み、相手の意表を付く。
カイとアルヴェのそれは、悪戯の形をした多重術式制御だった。
実際のパーティーグッズとしても売れそうだが、コストがかかりそうだなんて頭の隅で思い描く。
だが、今はそんなことはどうでもよかった。
ルカは皮肉まじりに、言葉を吐いた。
「でも、おかげで歓迎会に参加出来てないじゃないですか」
「あ~、逃した。セリウス先生の説教、なげぇんだもん」
カイの態度には、悪びれというものが欠片もない。
その態度にルカは言葉を飲み込み、黙る。
黙ったルカを見て、カイは一瞬だけ表情を緩めた。
ルカの意図を察して、アルヴェは亜麻色の髪をくしゃりと撫でる。
「もしかして、寂しかった?」
――図星。ルカは咳払いをし、アルヴェの手から離れる。
「そんなこと、ありません」
か細い声に、アルヴェの口の橋が意地悪く上がる。
「そ? ならいいけど。でも、ああいう場も社交性を身に付けるひとつの場だからね。ルカもなれていかないと」
さらっと言われて、ルカは口を尖らせた。
その時、それまで黙っていたノクスが口を開く。
「最初からわかっていただろう」
視線はペン先のまま、低い声が部屋に響いた。
一瞬、部屋の空気が止まる。
「ノクス」
アルヴェがやんわりと嗜める。
アルヴェから言わせれば、ルカよりもノクスの対人スキルは壊滅的で、それこそノクスのほうが社交性を身に付けるべきだ。
ただ、ルカとノクスの大きな違いは、ノクスがそれを必要としていないところにある。
そこまで割りきれれば、ルカも楽だろうが、世話好きの彼はそれができない。
ルカは視線を床に落とした。
「……」
ノクスの言うことは正しい。
カイやアルヴェがいなければ、楽しめないなど他人に依存しすぎだと、自傷する。
ノクスの言うことは正論で、だけど胸のどこかが少しだけ痛くなる。
カイは頭をかきながら、助け船を出す。
「もう少し、言い方があるだろ」
「事実――」
ノクスの短い返しに、目を細めた。
「そーれーでーも! ルカは楽しみたかったんだろ」
カイの呆れた笑い声に、ルカはおずおずと顔をあげた。
ノクスを見れば、ひっきりなしに動いていたペン先が止まっている。
レポートから目線を外し、ルカの様子を伺う。その顔は少し困ったように眉が下がっていた。
――何を言えばいいのか分からない顔。
結局、言葉にならないまま視線をレポートへと落とす。
(やっぱり、ちょっと苦手だな)
そう思ったが、ノクスのことを嫌いになれないのも、また事実だった。




