迎えに来た理由
離縁されたメアリーは、すぐに実家に帰った。メアリーはm実家に逐一報告していたので、突然の離縁にも実家の両親には驚かれなかった。ただ、家族は、メアリーが気落ちしていないかは気にかけていた。
メアリーは実家では小説を読み、両親に散歩に連れ出されていた。伯爵家では帳簿を読み込み、社屋や工場内を歩き回ってばかりだったのとは随分と違っていた。
その後、数人でメアリーを訪ねてくるものがいた。
メアリーが応接室に行くと、エドワードの工場にいた工場長と技師長がいた。二人はメアリーを見ると、立ち上がって、深々とお辞儀をした。
「今日はどうしたんですか?」
ただ事でない来客で、メアリーが驚いて尋ねた。直後に何かに気づいた。
「それより、工場の方はいいのですか?」
「そのことですが、奥様……」
工場長が口を開いた。
「私はもう伯爵家夫人ではありませんよ」
「そうなのですが……どうかお許しください。奥様と言わないと気が済まないのです」
「そうでしたら、おっしゃっても構いません」
「ありがとうございます。奥様……その、単刀直入に申しまして、経営に参画して頂けないでしょうか?」
工場長が言い、技師長が同調してうなずいた。対面に座るメアリーは床に視線を落とした。
「それは、できません」
工場長も技師長もそのままで目を閉じた。しばらくの間、沈黙が部屋を支配した。
「そうですか……」
今度は技師長がメアリーに語りかけた。
「……それでも、我々は」
技師長が続けようとしたが言葉が出ない。
工場長が口を開いた。
「我々は奥様の下でなければ、働けません」
メアリーは視線を上げて工場長を見た。
「そう面と向かって言うだなんて……」
メアリーは両手で両方の頬を覆い、目を閉じた。
「……少し考えさせてください」
しばらく後に、工場長と技師長はメアリーの実家を辞した。
帰りの馬車の中で、工場長が技師長に尋ねた。
「奥様、乗ってきてくれそうだったな」
「そうだな」
「これなら、すべて洗いざらい言えるな」
工場長に問われて、技師長は黙ってうなずいた。
* * *
工場長は自宅に戻らず、銀行家の邸宅に向かった。
中に通されてしばらく待っていると、若い女性が現れた。工場長は立ち上がった。
「キャサリン様……」
「それはやめて。婚約破棄したんだから」
キャサリンは手で工場長に着席を勧め、自らも座った。
「工場長さん、首尾はどうだった?」
「乗ってきてくれそうでした」
キャサリンは手を叩いた。
「それは良かった。あなたたちにとっても、当銀行にとっても」
「はい。話を進められます」
「こちらも進められるところは進めるわね」
「よろしくお願いします」
キャサリンは工場長に向かって身を乗り出した。
「次で決着?」
「そのつもりです」
キャサリンは首を横に振ったあ。
「『つもり』じゃダメ。絶対にまとめて」
工場長は力強くうなずいた。
「はい。必ず決着させます」
キャサリンは笑みを浮かべた。
「しっかりね。融資の絶対条件なんだから」
* * *
数日後、メアリーの下に工場長と技師長が再び訪れた。
「いらっしゃい」
メアリーと工場長と技師長は、紅茶を挟んで座っている。
「この前のことね?」
メアリーの問いかけに、二人はうなずいた。工場長が口を開いた。
「その通りです」
工場長が技師長をちらりと見た。技師長は「どうぞ」と言った。
「奥様。これから現状を説明します。驚かないでください」
「そんな驚くことがあるの?」
工場長はうなずいた。一呼吸おいてから話し始めた。
「まず、エドワード様の会社から全員抜けました」
「……え?」
メアリーは目を見開いた。工場長と技師長は表情をメアリーを見つめていた。
「そして--奥様にお話があるのです」




