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最後までやりきります

「--奥様にお話があるのです」


 工場長の言葉に、メアリーは姿勢を正した。それに合わせて、工場長と技師長も姿勢を正した。


「抜けたもの全員で会社を立ち上げます。奥様にはその会社の経営に参画して頂きたいのです」


 工場長がゆっくりと言う。


 メアリーは姿勢を崩さずに目を閉じた。


「だめでしょうか?」


 技師長が尋ねる。メアリーは首を横に振る。


「いいえ。だめではありません。ただ……」


 少し言葉を止めて、息をついた。厳しい表情を見せつつ、再び話し始めた。


「工場はあるのですか?」


「買う予定です」


「お金はどうするのですか?」


 メアリーが尋ねると、工場長は笑みを見せた。


「キャサリン様のところで融資を受けられそうです」


 メアリーもつられて表情を緩めた。


「よかったじゃない。でも、キャサリン様は今は奥様ではないのですか?」


「いえ。婚約破棄されました」


「え?本当ですか!?」


 メアリーは声を上げた。


「本当です」


 工場長が表情を変えずに答えた。


「でもそれじゃあ、旦那様は独りぼっちにならない?」


 メアリーの言葉に工場長と技師長が黙り、メアリーも二の句が継げなかった。


 沈黙の中、工場長が「あの……」と呟くようにメアリーに問いかけた。


「あの……ひとつ問題がありまして…」


「どうしました?」


 メアリーが尋ねると、工場長が身を乗り出した。


「奥様が経営に参画することが融資の条件です」


「え……?どうして……?」


 メアリーが眉をひそめつつ尋ねる。


「分かりませんか?」


 技師長が言った。工場長は手で技師長を制しようとした。


「いや、工場長、これだけは言わせてくれ」


 工場長は手を引いた。


「奥様。奥様がいないと回らなかったのです。私も、工場長も知っています」


「そんなこと……」


 メアリーが戸惑いつつ技師長を止めようとした。それでも技師長は続ける。


「キャサリン様も分かったのです。ほんの少ししかいなかったのに」


「それは、みなさんが頑張ったからですよ」


「それでも奥様がいないとダメでした!」


 メアリーは驚いて黙った。


 工場長が手で技師長を制した。


「申し訳ありません……」


 技師長はうつ向いた。工場長が今度は口を開く。


「奥様。技師長が熱くなり過ぎました。驚かせて申し訳ありません」


 メアリーはうなずいた。


「大丈夫ですよ」


 工場長が続ける。


「ただ、私も考えは同じです。他の社員も同じです。キャサリン様も」


 工場長がしっかりとメアリーを見た。


「みんな見ていました。エドワード様が無理を言っても現場で受け入れられるようにご尽力いただいてました。みんなが全てを覚えています」


「新会社には奥様のお力が必要なのです。経営に参画してください。お願いします」


 技師長も「お願いします」と言った。


「奥様に参画していただかないと、融資も受けられません」


 メアリーは視線を右斜め下に落とした。


「困りましたね……」


「出てもらわないと困ります」


「そうは言っても……」


「エドワード様を助けることにもなるのです」


「どうして?」


 工場長が一度咳をしてから続けた。


「新会社はエドワード様の工場を買う予定です」


「ああ……」


 メアリーが微笑んだ。


「誰が決めたの?」


「社員みんなで決めました」


 工場長が答えた。技師長もうなずいた。


 メアリーもうなずいた。


「そこまで言われては断るわけにはいきませんね」


 一度、静かに息をつく。


「皆さんが必要としてくださるのなら、お受けします」


 メアリーは立ち上がった。


「最後までやりきります」


 工場長と技師長も立ち上がった。


「ありがとうございます!」


 三人は手を取り合った。


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