表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/6

全員が沈黙した日

 会議室に幹部社員ばかりでなく、家内の上級使用人らも集められていた。雑談がされているが、ここに集められた理由に話題が集中していた。


 ドアが開き、エドワード、キャサリン、そして最後にメアリーが入室した。全員が立ち上がる。三人が正面に座り、後ろに秘書が立った。幹部社員や上級使用人が続いて座った。


 しんとして、誰一人口を開かない。エドワードとメアリーに視線が分散していた。エドワードは笑顔を見せ、メアリーはうつむいていた。キャサリンは感情を見せずに座っていた。


 エドワードがひとつ咳払いをしてから話し始めた。


「今日集まってもらったのは、再婚の報告である」


 会議室の一部がざわついた。驚いている様子の者もいる。


「静かにしたまえ」


 エドワードがたしなめると、全員が表情を消し、口を閉じた。


「ここにいるキャサリンは、銀行家の娘であり、特別に金融の教育を受けている。経営にも明るい」


 キャサリンは座ったまま頭を少し下げた。エドワードがキャサリンの方を見つつ説明をつづけた。


「今後、当社、当家にとって重要な役割を果たしてくれるものと考えている。それから……」


 エドワードがメアリーを一瞥して、すぐに正面を向いた。


「当然メアリーとは離婚だ」


 みな顔を上げ、小さく息をのんだ。数人は唇をかんだ。しかし誰もが沈黙したままである。


 エドワードが正面を向きながら言った。


「メアリー、お前は経営に参画するだけの素養が無い。この会社も家も、私が取り仕切ってきた。無能なお前を許してきたのも、もう終わりだ」


 メアリーはうつむいて目を閉じてエドワードの話を聞いている。


「離婚の埋め合わせはするので、出て行ってもらう」


 会議室全体が沈黙した。


「いいな?」


 エドワードが怒鳴るように確認した。その場にいたもの全員がメアリーに視線を向けた。


 メアリーは無理に頭を下げた。


「……承知いたしました」


 エドワードが会議室内に向かって言った。


「では再婚を進める。今日はこれまで」


「お待ちください!」


 執事長の声が会議室に響き渡った。


「トマスか……」


 エドワードが舌打ちをした。


「どうした?」


 エドワードがトマスに尋ねた。


「お考え直し下さい!」


 トマスが一歩踏み出した。


「これだけは、なりません!」


 エドワードはトマスから顔を背けながら言った。


「……何を言っている」


 エドワードがさえぎろうとしても、トマスはなお続けようとする。


「奥様がいなくなれば……」


「口を出すな!」


 エドワードが叫んだ。トマスは歩みを止めた。


「さがれ!」


 エドワードに強く命じられてトマスは引き下がった。トマスが憮然としつつ座ると、再び会議室は静まり返った。幹部社員の全員がうつ向いていた。


--やはりおかしい。


 キャサリンはメアリーを少し見た。


--本人は何も言わなかった。


 キャサリンは幹部社員たちを見た。


--彼らは反対しなかった。


 そして正面を向いた。


--誰も納得していない。


キャサリンは少しだけ息を止めた。


--もう無駄だと分かってるのね。


「どうした?」


 隣に座るエドワードが尋ねた。キャサリンは手を振って「なんでもないです」と言った。


「なら、ひとこと挨拶をしてもらおう」


 エドワードがキャサリンの背中を軽く叩いた。うながされてキャサリンが立ち上がった。改めて会議室を見回した。


--私を見ていない。


 キャサリンは口を開くが声が出なかった。


 少しの沈黙。キャサリンは唇を舌で濡らしてから話した。


「結婚自体は半年ぐらい後になる予定です。それまでに状況を把握していきたいと思います」


 そういうとキャサリンは急いで座った。


「おかしな挨拶だったな」


 エドワードが嘲笑交じりにキャサリンに言ってきた。


「はい。面目ありません……」


 キャサリンは小さく頭を下げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ