全員が沈黙した日
会議室に幹部社員ばかりでなく、家内の上級使用人らも集められていた。雑談がされているが、ここに集められた理由に話題が集中していた。
ドアが開き、エドワード、キャサリン、そして最後にメアリーが入室した。全員が立ち上がる。三人が正面に座り、後ろに秘書が立った。幹部社員や上級使用人が続いて座った。
しんとして、誰一人口を開かない。エドワードとメアリーに視線が分散していた。エドワードは笑顔を見せ、メアリーはうつむいていた。キャサリンは感情を見せずに座っていた。
エドワードがひとつ咳払いをしてから話し始めた。
「今日集まってもらったのは、再婚の報告である」
会議室の一部がざわついた。驚いている様子の者もいる。
「静かにしたまえ」
エドワードがたしなめると、全員が表情を消し、口を閉じた。
「ここにいるキャサリンは、銀行家の娘であり、特別に金融の教育を受けている。経営にも明るい」
キャサリンは座ったまま頭を少し下げた。エドワードがキャサリンの方を見つつ説明をつづけた。
「今後、当社、当家にとって重要な役割を果たしてくれるものと考えている。それから……」
エドワードがメアリーを一瞥して、すぐに正面を向いた。
「当然メアリーとは離婚だ」
みな顔を上げ、小さく息をのんだ。数人は唇をかんだ。しかし誰もが沈黙したままである。
エドワードが正面を向きながら言った。
「メアリー、お前は経営に参画するだけの素養が無い。この会社も家も、私が取り仕切ってきた。無能なお前を許してきたのも、もう終わりだ」
メアリーはうつむいて目を閉じてエドワードの話を聞いている。
「離婚の埋め合わせはするので、出て行ってもらう」
会議室全体が沈黙した。
「いいな?」
エドワードが怒鳴るように確認した。その場にいたもの全員がメアリーに視線を向けた。
メアリーは無理に頭を下げた。
「……承知いたしました」
エドワードが会議室内に向かって言った。
「では再婚を進める。今日はこれまで」
「お待ちください!」
執事長の声が会議室に響き渡った。
「トマスか……」
エドワードが舌打ちをした。
「どうした?」
エドワードがトマスに尋ねた。
「お考え直し下さい!」
トマスが一歩踏み出した。
「これだけは、なりません!」
エドワードはトマスから顔を背けながら言った。
「……何を言っている」
エドワードがさえぎろうとしても、トマスはなお続けようとする。
「奥様がいなくなれば……」
「口を出すな!」
エドワードが叫んだ。トマスは歩みを止めた。
「さがれ!」
エドワードに強く命じられてトマスは引き下がった。トマスが憮然としつつ座ると、再び会議室は静まり返った。幹部社員の全員がうつ向いていた。
--やはりおかしい。
キャサリンはメアリーを少し見た。
--本人は何も言わなかった。
キャサリンは幹部社員たちを見た。
--彼らは反対しなかった。
そして正面を向いた。
--誰も納得していない。
キャサリンは少しだけ息を止めた。
--もう無駄だと分かってるのね。
「どうした?」
隣に座るエドワードが尋ねた。キャサリンは手を振って「なんでもないです」と言った。
「なら、ひとこと挨拶をしてもらおう」
エドワードがキャサリンの背中を軽く叩いた。うながされてキャサリンが立ち上がった。改めて会議室を見回した。
--私を見ていない。
キャサリンは口を開くが声が出なかった。
少しの沈黙。キャサリンは唇を舌で濡らしてから話した。
「結婚自体は半年ぐらい後になる予定です。それまでに状況を把握していきたいと思います」
そういうとキャサリンは急いで座った。
「おかしな挨拶だったな」
エドワードが嘲笑交じりにキャサリンに言ってきた。
「はい。面目ありません……」
キャサリンは小さく頭を下げた。




