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星間覇道  ――没落貴族と女海賊、銀河帝位争乱――   作者: 黒鯛の刺身♪


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第六十二話……退路なき艦隊

 帝国領内深くで、後方を遮断されたアーヴィング大公国軍艦隊。

 その中で、なお戦意を失わぬ者たちは――逃走ではなく、突破を選んだ。


「退路は読まれている! 待ち伏せを避けよ!」


 怒号が、艦橋に響く。


「――正面を食い破る! それが唯一の生路だ!」


 統制を失いかけていた艦隊は、ここでようやく一つの意思を持ち始める。

 逃げ散らなかった艦艇――それはすなわち、選りすぐりの精鋭であった。


 彼らは急ごしらえの隊形を整え、一個の戦闘集団として再編される。


 その中心に立ったのは――

 エグモント伯爵。


 元帝国軍人にして、艦隊司令の経験を持つ歴戦の指揮官。

 誰からともなく推挙され、その場の総指揮を引き受けた男であった。


 艦隊は進む。

 突破のために。


 確かに、緒戦の小規模戦闘においては連戦連勝であった。


 だが――

 一週間後。


 その進路を、完全に塞ぐ影が現れた。


「……来たか」


 キスリング上級大将率いる、近衛艦隊。

 帝国最精鋭の艦隊が、正面に展開していた。


「右翼を伸ばせ! 半包囲で押し潰す!」

「敵の矛先を砕け! 逆に包囲してしまえ!」


 双方、ほぼ同時に指示が飛ぶ。


 ――金床戦術。

 片翼を伸ばし、敵を挟撃する古典的機動。


 戦闘艦艇数、双方およそ千隻。

 乗員練度、指揮官の技量――いずれも拮抗していた。


 だが。

 決定的に異なるものがあった。


「――光子魚雷、発射!」


 帝国の近衛艦隊の最先鋒。

 五十隻の新鋭高速駆逐艦群が、同時に牙をむく。


 放たれたのは、短距離光速兵器――光子魚雷。

 通常のミサイルは、威力こそ大きいが、速度と機動に限界がある。

 ゆえに迎撃可能な兵器であった。


 だが、この魚雷は違う。

 ダークエネルギー場の表面張力を利用し、空間そのものを「弾く」ように加速。

 軌道は不規則に跳ね、まるで水面を飛ぶ魚のように防御網をすり抜ける。


 ……ゆえに、凡そ、迎撃不能。


 次の瞬間。

 エグムント艦隊の前衛に、無数の閃光が突き刺さった。


 爆発。

 装甲が裂け、艦体が内側から吹き飛ぶ。


「お味方の前衛、崩壊!」

「隊形維持できません!」


 エグモント艦隊の先鋒は、ほぼ一撃で瓦解した。

 崩れた陣形に、近衛艦隊の砲火が集中する。


 艦隊側面が晒される。

 そこへ、さらに追撃。


 ――半包囲が、完成した。


「……」


 エグモント伯爵は、スクリーン上の戦況図を見つめた。

 既に、戦況は覆らない。


「……もはや、これまでか」


 誰にともなく呟く。


「皆……すまぬ」


 静かに拳銃を抜き――

 引き金を引いた。


 乾いた音が、艦橋に響く。

 その死を境に、艦隊の統制は完全に崩壊した。


 やがて。

 残存艦艇の多くが、白旗を掲げる。

 投降。

 それが、唯一残された選択だった。


 ――だが。

 その「勝利」は、帝国側にも代償を強いる。


 後方支援船舶を含め千隻規模の艦艇、膨大な乗員。

 それらの収容、武装解除、移送――

 近衛艦隊は、その処理に多くの戦力を割かざるを得なかった。


 結果として。

 本来であれば可能であった追撃戦は、中断される。


 戦術的勝利。

 だが――

 戦略的には、一瞬の時間的「空白」が生まれた。




◇◇◇◇◇


 ――ほぼ同時刻。

 パウルス元帥率いる艦隊、約六百隻。


 グラストヘイム要塞を発し、第三総管区外縁宙域へと進出していた。

 その任は明確だった。


 ――撤退中の味方を救い、戦線をまとめ直すこと。


「全艦、迎撃隊形。砲雷撃戦用意」


「了解!」


 命令は簡潔に、無駄なく伝達される。

 各宙域から追われる形で流入してくる味方艦。


 それを追撃する帝国軍部隊は、いずれも小規模で散発的であった。

 パウルスはそれを見逃さない。


 局地的優勢を維持しつつ、敵を一個ずつ叩き潰す。

 艦隊は常に秩序を保ち、無理な追撃を避け、確実な戦果だけを積み重ねていく。


「敵、前方小集団。数、三十」


「主砲、斉射。第二群、側面へ回り込め」


 冷静な指揮。

 その結果、各地で取り残されていた大公国軍艦艇が、次々と救出されていった。


「閣下、このまま前進すれば、さらに多くの味方を救えます」


 参謀の進言。

 パウルスは、しばし戦況図を見つめる。


「……」


 本来、現れるはずの存在があった。

 ――近衛艦隊。


 帝国最精鋭。

 それと正面から衝突すれば、この艦隊では到底持たない。


 それは、幕僚全員の共通認識でもあった。

 だが。


「……来ない、か」


 低く呟く。

 そして、決断した。


「――もう一歩だけ前へ出る」


「哨戒を強化しろ。接触兆候があれば、即時離脱だ」


「はっ!」


 その一歩が、多くの味方の命運を分けた。


 パウルス艦隊はさらに前進し、多数の友軍を回収。

 味方の撤退に大きく寄与することとなる。



 そして――

 十日後。


「哨戒艦一一六号より報告!」


 通信士の声が、緊張を帯びる。


「敵戦闘艦艇、二千隻以上を確認!」


 静寂。

 そして、誰もが理解した。


 ――来た。

 帝国軍、本隊。


「……そうか」


 パウルスは、短く息を吐いた。

 迷いはなかった。


「全艦、後退。グラストヘイム要塞宙域へ帰投する」


「了解!」


 命令は即座に実行される。

 各艦は事前に定められていた分散撤退計画に従い、小集団へと分離。


 ワープを定期的に繰り返し、追撃を避けながら段階的に後退していく。

 統制された撤退。


 それは、敗走とは明確に異なるものであった。


 こうして。

 パウルス艦隊は戦力を保ったまま、グラストヘイム要塞へと帰還を果たす。



 だが――

 戦役全体の損害は、あまりにも大きかった。


 アーヴィング大公国軍。

 本侵攻作戦において失われた艦艇は、非戦闘船舶を含め、大小合わせて四千隻以上。


 惑星地上軍に至っては――

 六百万を超える死傷者および捕虜。


 もはや、それは敗北を通り越した「崩壊」であった。


 そして。

 逆襲へと転じた帝国軍大艦隊が、ゆっくりと――しかし確実に迫る。


 その目標はただ一つ。

 グラストヘイム要塞。

 ――双方にとって、もっとも重要な戦略拠点であった。



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関ヶ原( ˘ω˘ )
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