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何もしないが辛いか、するが辛いか、どっちなんだろうな。

 大変居づらい。


 俺はここのところそう感じていた。俺が数学でまあ、その、なんだ、好ましくない点数を取ったがために開かれている放課後学習会の最中そう感じていることが多くなった。


 沈んでゆく夕日、オレンジ色の光が教室を包む。その教室には、残って勉強をする男女がいる。成績優秀な関和孝と数学好きだが、成績はあまり良くない一宮円……そして、俺、梶井堯。


 俺は自分のそういった事(・・・・・・)はあまり詳しくないのだが、そんな俺でも分かる事がある。一宮は関が好きではないか、という事だ。隣にいると何となく分かるのだ。問題を解いている時の一宮は真面目だが、解答を確認する関が近くに来ると、途端に何か緊張したようになる。初めは関が苦手かとも思ったが、それだったら最初からここには来ない。つまり、そういう事なのだと結論を導いた。


 だから俺は気まずいのだ。


 関に好きな人がいるという事は聞いたことが無いが、数学好きな一宮と話すことは好きなようだ。だから、2人で話している時は楽しそうなのだ。こんな俺を放って置いて。

 明らかに邪魔である。いわば部外者。


「手が止まっているぞ、梶井」


 俺がこんなにも悩んでいるのに(数学の問題で、という事ではなく)関は全然分かってくれている様子はない。

 どうやら、俺が覚悟を決めるほかないようだ。


「……関、放課後の勉強は今日で最後にするよ」


 関の顔が歪んだ。


「何言ってんだよ」

「明日のテストでいい点とってみせるからさ」


 心底疑わし気な顔をしている関に俺は精一杯出来るぞ、という様な顔をしていた。

 俺が放課後いなくなってしまえば、教室で、2人で学習会が行われることになる。そうなれば、俺も気まずい思いをしなくなるし、一宮と関もいい感じになれて、一石二鳥。


「はいはい。梶井がそこまで言うならやってみなよ」

「任しておけ」


 俺は関に向かって親指をグッと突き出した。


「じゃ、明日の梶井次第でこの学習会の存続を決めよう」


 :


 :


「――って事になりました」

「で、何で俺のところに来たわけ?」

「太宰、俺はどうしたらいいんだ!?」


 昨日の失態を学校に来て早々隣のクラスにいる太宰(しゅう)に報告した。 途中まで自分の思い通りに事が運んでいたにも関わらず、最終的には悪い結果として終わってしまった。俺が抜けて、2人でも学習会を続ければいいものの、どうしてそんな方向に行ってしまったのか、俺は納得が出来ていない。


「それはそうだろう。梶井の為に始まった学習会なのに、梶井が良い点数を取ったらその学習会は本来の目的を失う事になる」


 太宰に言うとあっさりと答えが見つかり、俺は頭を抱えた。


「それで、何故俺なんだい?」

「そりゃあ、この学年一モテる、美男子だからじゃないか」


 そう、太宰修は学年一モテている。帰る時は毎日違う女の子と一緒に帰っているし、お昼は女子生徒が作ったお弁当だし、何人かの女子と食べているからだ。本人はあまり自分の外見を良くは思っていないようだけれど、他から見れば、誰もが羨む容姿なのだ。 少し変わった面も持っており、重度の炭酸依存症なのだ。話をしている間にも太宰はコーラを飲んでいる。

 ちなみにこの学校、校内の自販機には炭酸が無いため、暗黙のルールで校内は炭酸を飲むことが禁止になっている。


「美男子だからって、色恋沙汰に詳しいわけではないよ」

「でも、女子と話している時、皆笑っているじゃないか」

「お道化ているだけだよ。女性を怒らせるのは怖い。俺は怖いから怒らせないようにしているだけ。人は心の中でどう思っているか分からない。その怖さを感じたことはないのかい?」


 こういったところもモテる要素なのだろうか……。


「俺には分からない、かな……。そんな事より、今は学習会を、俺を除いた状況でも如何に存続させるかなんだ」

「数学のテストで悪い点を取るのはどうだい?」

「……やっぱり、それかな」


 俺もなんとなくそれが一番手っ取り早いと思っている。しかし、そうなれば、現状は変わらない。また、放課後3人で、俺は何となく気まずい。そして、2人の仲もなかなか進展しないではないか。友人である関に彼女ができるこの上ないチャンス。この梶井が、2人のキューピットにならなければ!


「太宰!」


 太宰はまたコーラを一口飲んで、怪訝そうに俺を見た。


「協力してくれ!」

「……面倒事は避けたいのだけれど」

「コーラ奢ってやるよ」


 財布の中身を思い出し、俺はそう切り出した。太宰は俺を試すような目で見ている。


「……2本、で」

「面倒事は――」

「分かった! 5本!」

「決まりだな」


 友人の為ならば、仕方がない。これくらいの事をしてあげられないで、何が友だ。

 俺は財布の中身を思い出しながら必死に自分に言い聞かせた。


「やっぱり、3本とか……」

「男に二言は無いよ」


 ちょっとだけ、関を恨んだ。




 目の前にあるのは文字と数字が書かれた紙。俺は本来の力を示そうと、懸命にその紙と向き合った。まず、俺が良い点数を取って、それから、いろいろと考える事にした。


 隣の人と交換して採点する。

 返って来たテストは86点。十分な合格点といえるだろう。


「出来るじゃないか」

「俺が本気を出せばこんなものだよ」


 振り返ってテスト用紙を覗き込んだ関は予想外の点数だったようで驚いている。


「今日の放課後学習会はな――」

「ちょい待ち。俺はいいけどさ、一宮はどうすんだよ」


 ――関は一宮さんの事考えてないのではないかな? だったら思い出してもらえばいい。関に一宮さんの事聞いてみたら?


「一宮さん? もともとお前のためじゃないか」

「だけどさ、一宮さんも苦手なんだろ、数学。だから協力してやんなきゃ。最後まで見てやれよ」

「……ま、あ」


 関はそこで考え始めた。俺の言った事がもっともだと思ってくれたのだろう。このまま、一宮と2人で放課後の学習会をしてくれたら、ミッションコンプリート。案外楽勝だったかもしれないと俺は心の中でガッツポーズをするのだった。


「一宮さんのテストの点数を見てからかな」

「そ、そうか」


 俺は恐る恐る、一宮の席へと視線を移す。少し自信を持ったような顔を見て俺は、途方に暮れた。あの表情からして、点数がそれなりに良かったに違いない。つまり、このままだと学習会は無くなり、2人がまたただのクラスメイトに戻ってしまう。


 授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると同時に俺は立ち上がって、一宮の席へ向かった。


「一宮、ちょっと」

「え……?」


 あんまり人が来ない階段の前に連れて来て、俺はテストの点数がどうだったか聞き出した。


「78点。関くんのおかげでこんなに点数が上がって嬉しい」


 このままではいけない。


「私、関くんに報告しに行くね」


 と、一宮は俺の横を通り過ぎて教室に戻ろうとした。


 その間、俺は頭の中で、考えた。報告に行く、関は感心する、一宮は喜ぶ、関は学習会の必要性を感じなくなる、それを一宮の告げる、学習会終了、ジ・エンド。

 俺は一宮を止めようとするが、理由が思いつかない。


 そこに、太宰が通りかかった。


 俺はチャンスとばかりに太宰に目配せする。協力者である、太宰は俺の視線に気が付き、一宮に声をかけた。


「あ、一宮さん」

「え、太宰くん?」

「あなたとは一度話がしてみたかったんです。これからのお昼休み、ご一緒しても?」


 一宮は少し戸惑っていたが、後ろから来た小野田小町が乗り気で太宰と話していたので何とかなったようだ。

 俺はジェスチャーでお礼を伝えると、自分も教室に戻った。


「さっき、太宰が一宮さんと一緒に来たけど、あいつらって仲良かったっけ?」

「さーな。委員会とか一緒なのかもしれないぞ」

「ふーん……」


 関が先にお弁当を広げて、不思議そうにしていたので、俺は適当に誤魔化した。関は腑に落ちない様子だったが、またお弁当を食べ始めた。

 今日の目的がはっきりとする。放課後まで関と一宮を話させてはいけない。放課後が来る前に学習会の終了が決まってしまう。とりあえず放課後まで2人の接触を阻止し、放課後になったら、俺がなんとかしなくては。


 こうして、俺と太宰は1日、2人の接触を阻止しまくった。


 休み時間ごとに話しかけにくる恐れがある一宮を警戒し、関を俺が連れ出したり、太宰が一宮の動向を知らせたり、何とかして2人を遠ざけた。

 さすがに、俺の行動が可笑しい事に気が付いた関は、5限目になると不審な表情を向けて来た。


「おい、休み時間の度になんなんだよ」

「……何が?」


  追及を逃れるためにわざとすっとぼける。

 視線が痛く刺さってきたが、この時間を頑張れば、放課後がやってくる。もう少し……!




「疲れたー」


 雑巾がけの為に水の入ったバケツを持って、俺は歩いていた。

 今日は1日何かと2人なんとかしようと神経を使っていたため、精神的に疲れたのだ。


「疲れているね」


 横に並んできたのは太宰だった。


「自分のところの掃除は?」

「俺だと逆に邪魔してしまうらしいから、女子たちがしているよ」

「へ、へー」


 邪魔になるって一体何があるんだろうかと思って、歩いていると、視線の先に関と一宮の2人が接近している事に気が付く。関は教室の入り口で今村、高原と話をしていて、一宮は反対側の廊下から小野田と教室に戻ってくるようだった。


 2人が、接触するという事は、ここまで頑張ってきた苦労が水の泡と化す。

 俺は2人をどうにかしようという考えが先に来て、太宰の言った事も聞こえないまま、走り出した。


 10m。


 5m。


 2人の距離が縮まっていく、それと同時に俺と2人も近づく。縮小していく3人の距離の三角形。

 一宮が関に、関が一宮に気が付く。関と話していたはずの今村と高原はもう教室の中に戻って行った。


 まずい!


「関、待っ――」


 足がもつれて、廊下の床が、だんだんと近づく。


 そこで、俺は気が付いた。



(あ、バケツ……)



 水も滴る、良い男・女、ってね。




「で、走ってまで俺に言いたかったことって?」


 鬼の形相な関の前に俺は正座していた。その横にいた一宮も困ったような顔をしていた。2人の姿は制服からジャージへとシフトしている。全部俺のせいだ。

 少し離れたところから太宰も見ている。


「えっと……」

「良い点数とっていたからお前を見直したのに、何だよ今日」


 そう、元はと言えば、これが原因。学習会がなくすなんて、関が言うからこんな事になったのだ。


「学習会なくしたら、2人の共通がなくなるだろう!」

「何言って――」

「お前と一宮の事だよ!」


 一宮の顔が一気に赤くなったのが分かった。

 そこで、俺はしまったと思った。


「一宮さん……?」


 関が隣にいた一宮を見た時、一宮は堪らなくなって、鞄を持って教室を出て行ってしまった。太宰はため息を吐いて頭を抱えた。

 関と太宰から冷たい視線を向けられる。


「え、えーとぉ……」

「……余計なお世話なんだよ」


 そう言うと、関は一宮を追いかけて行った。


「え」


 太宰も驚いた顔をしていたが、何かに気が付いたようだった。


「……青春だな」


 関が帰ってくるまで、俺は顔を青くして正座していた。

 果たして、俺がしたことに意味はあったのか無かったのか……。それは、神のみぞ知る事かもしれない。











何もしないが辛いか、するが辛いか、どっちなんだろうな。

>Do you like blue?


このあと、コーラをおごった彼はさらに青くなりました。


2015/6 秋桜(あきざくら)(くう)

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