みえ ない
※注意※
流血、残酷な表現などがございますので苦手な方はおやめください。
朝、窓から差し込む朝の光によって目が覚める。アパートの外からは既に起きた人たちの音がしていた。道を歩く、アスファルトを踏む音。車のエンジン音。
時計を見ると、目覚ましが鳴る20分前。その20分、布団の中で楽しむ。
目覚ましが鳴り、止めてから背伸びをして起き上がる。今日もどうやらいい天気らしい。適当に着替え、鏡を見る。そこには寝癖のしっかり付いた自分の姿が映った。
今日も一苦労。
洗面所で寝癖を直し、顔を洗う。目が冴えてきて、ようやく頭も働き始める。洗っている最中に、今日の朝ご飯はどうしようかと考え、結局昨日買ったスーパーの惣菜を温める事に決定する。
髪をドライヤーで乾かし、ワックスで髪の毛を整える。うん、及第点。電子レンジに惣菜を流れ作業の如く、冷蔵庫から出して入れ、ボタン操作で温める時間を入力。
その間、電気ポットに水を入れスイッチオン。
朝はカフェオレを飲むと決めている。テーブルに並んだ朝食たち。変わらない日常だ。
テレビをつけると最近起こっている世界の事件、事故。政治の話なんかが流れてくる。
右上に表示された時刻を見ると、出なければいけない時間となってしまっていた。慌ててご飯をかき込み、流しに洗う物を入れて早々に出て行った。
前期の成績が開示された。
大学に行く途中、友人に会ったので一緒に見比べると、何とか勝てたようだ。友人も頭が良くて、よく競っているのだ。
「今回は危なかった、お前に負けるかと思ったよ」
友人は笑っていた。その笑顔に俺は違和感を感じたが、次回もまた勝負しようと笑いながら言った。
よくあいつは誤魔化すことをする。だから、合わせて笑う事しかできない。触れない事が優しさなのか、ちゃんと聞く事が優しさなのか、俺はまだ、答えを出せていない。
講義の最中、ずっと考えていた。俺は友人をライバルだと思って成績が開示される度に2人で見せ合っていた。それがお互いのやる気を高める子供だと思ったからだ。
しかし、それでいいのか……。
隣ではイライラしたように何回もシャープペンシルの芯を折っている。そのいらだちはきっと俺のせいかもしれない。俺には後ろめたさがあるから、だから、こんなにもあいつに触れ難いと思っているのか。
すべての講義が終わると、隣の友人は立ち上がった。しかし、通路側に座っているのは俺なので、そこから動く事が出来ないでいる。
俺は早くしようと、鞄に急いで物を詰める。
「一緒に帰ろ?」
横を見ると、俺の彼女がいた。
俺は横にいる友人が気になり、何でもないように、普通を装った。
横を向くとあいつの姿はなく、お疲れ、と言おうとした口が虚しく閉じた。
彼女とは1ヶ月前に付き合い始めたばかりだった。そして、俺は友人も彼女が好きだった事を最近知った。今思い出すと、あいつには悪い事をし過ぎていたと思う。
俺は友人と言いながら、ちゃんとあいつの事を見ていなかったんだと反省する。
隣にいた彼女が心配そうに顔を覗き込んだので、俺は笑顔でそれをかわした。
明日からでもきっと遅くない。俺は友人であり続けたいのだ。
「そういえばさ、俺変な夢見るんだよ」
友人が学食でそんな事を言った。
いつものように2人で食べていた。学食は混み合い、周りでは他の学生たちが話をしている。席が見つからないのか、食べ終わった人を探して、自分たちが次に座ろうと待ちかまえている学生も多かった。
「人がさ、殺されてる夢」
「……なんか嫌だな、それ。最近、連続殺人事件もあるし、それの影響じゃないか」
友人はカレーを一口、また口に運んで、そうかもな、と言った。
「実は予知能力だったりしてな。その夢に出てきた人と被害者が特徴同じなんだよ」
予知能力とは、面白いことを言うなと、その話に乗ってみることにした。こんな事を言うなんて、珍しかったし。
「犯人は見えないのか?」
「……いや、顔だけは見切れたように見えないんだ」
「見えたらお手柄だよな、お前」
冗談っぽく言って、2人で笑いあった。
最近、気兼ねせずに、話す事が出来るようになってよかったと思っている。
「彼女とは、上手くいってるのか?」
「……え、あ、まあ」
突然の質問に、曖昧な返事をしてしまった俺を友人は不思議そうに見ていた。
「この間から言ってるじゃないか、俺の事は気にするなって」
「いや、急に聞かれて驚いただけ。……まあ、それなりかな」
こういう話はどうも照れくさい。この間、俺が友人の好きな人を後々知った事を伝えた。それでも俺は友人でありたいとも言ったのだ。こんな事残酷かもしれない。しかし、友人は俺をあっさり許してくれたのだった。
「お前はさ、優しすぎるんだよ」
「いや、だってなぁ」
「まあいいや、次の講義遅れる」
時計を見るともうすぐお昼休みが終わろうとしていた。
俺は、話した事は後悔していない。だが、こういう風に聞かれたりするのは、まだ複雑だ。
#####
今日も夢を見る。
誰かが殺されていて、それを俺はただ見ている。辺りは真っ赤な血の海に染まって、その中に俺はいる。ああ、なんて赤い。紅い。
犯人と思わしき人間は今日も見切れているように、顔がハッキリとしない。
同じアパートの一室なのか、よく見ると俺と部屋の構造が同じだ。俺は恐ろしくなる。こんな犯人が近くにいるなんて。
犯人は立ち上がり部屋を掃除し始めた。そして、被害者のぐったりとした身体を抱え込んでいる。
ニヤリと笑った口元が俺の頭に残った。
#####
テレビをつけると今日も連続殺人事件の内容が放送されていた。大学の近くから遺体が発見されるらしい。そんな近くとなると、男の俺でも怖い。
大学に行くと、やはり、みんなその話をしていた。通学途中の道でも、構内でも周りから聞こえてくるのはその話が大半だ。
嫌な気分になりつつ、仕方なしに教室に行く。
「おはよう。……って、大丈夫か?」
すでに来ていた友人の隣に荷物を置いて座ったが、友人が具合い悪そうな顔をしていたので慌てて、飲み物を差し出す。友人はやんわりと手でそれを押しのけた。
「ごめん、また夢見て」
「具合悪いなら、講義無理しなくても良いんじゃないか……?」
しかし、友人は力なく笑って誤魔化すだけだった。
何とかその日の講義が終わり、友人もまだ少し、具合悪そうだったがまっすぐ帰って寝ると言っていたのでひとまず安心して見送った。
「……大丈夫なの? お友達」
後ろから声がして振り向くと華やかな服を着た彼女が心配そうにこちらを見ていた。
俺は笑って、彼女の手をとった。
「連続殺人事件も起きてるし、物盗りだっても言ってたよ」
彼女が隣で歩きながら、怯えたような声で言った。
「あいつ、家が近いし、大丈夫だよ」
「なら、大丈夫だね」
彼女を心配させないように手をぎゅっと握った。
#####
この夢は、何を言いたいのか。
今日も誰かが苦しんでいる、この部屋の中に俺が見ている事も分からずに。
犯人は真っ赤な水溜まりの中で、何を考えているのか。
──見えたらお手柄だよな、お前
夢の中で浮かんだ友人の言葉。
そうだ、この夢を終わらせるためには、犯人が捕まればいい。事件は起きなくなって俺はこの夢から解放される。
夢の中で俺は犯人を見ようと目を動かした。
夢から必死に逃れようと俺は走り続けている様な感じだった。心拍数が上がり、息切れが激しい。
顔を動かして、きょろきょろと目を動かす。
その時、犯人の口元が見えた。にんまりとした口だった。口が見えたという事はもう少し上、俺は恐怖しながら視線を上へとずらしていく。
人を殺し、物を盗る。そんな非道な事をする犯人を俺は見る。心拍数がさらに上がり、心臓の音が煩い。
俺はこの恐怖から逃げるんだ、そのために、今……!
そして、俺は彼と目が合った。
#####
テレビの音が、遠くに聞こえる。俺は何も見えてはいなかったんだ。それが突き付けられる。
俺はテレビをつけていったことも忘れて、部屋を飛び出した。
「──さんは近くにある大学生の学生だったようです。昨夜、その青年の部屋から悲鳴が聞こえ、それを見に行った大家さんが現場を目撃したとの事です。青年の部屋からは一連の事件の被害者の所持品が見つかっており、警察はさらに詳しく調べるとの事です。また、犯人と見られる青年は鏡の破片で手を切ったようで、多量出血により、現在病院に運ばれていますが、意識不明の重体です。繰り返します、連続殺人事件の犯人と思わしき──」
みえ ない
>Do you like red?
1話の短編と併せて読むとまた良いかもしれません。
暗くてすいません、今度は明るい話にします(たぶん)。
2015/5 秋桜空




