その肉球、我を惑わす。
帰り道、近くの公園を通りかかる。公園を通る経路は少し遠回りなのだが、あいつに会うには致し方ない。遠回りと言っても時間的にはほんの10分。10分くらいならば、高くはない。喜んで差し出そう。
さて、いつもの公園にやってきた。そいつは俺が来ることを分かっているかのように、俺が来たとたん、姿を現す。俺は分かっている。こんな事をするのは俺だけではないことを。
しかし、そんな事はどうでもいいと思わせてくるのがあいつだ。俺が来ると足元にすり寄って、構ってほしそうに、撫でてほしそうに鳴く。
あざとい。実にあざといぞ!
そのあざとさには耐えられないのがこの俺だ。鞄を置いて、そいつを目一杯撫でてやる。ゴロゴロとのどを鳴らし、寝転がったり、上目遣いをしてきたり。一つ一つの動作が俺を魅了する。
こいつは分かっていてやっているのだろうか。この俺を惑わせるためにわざとツボをついてくるのか。はたまた、何も考えてなどいないのだろうか。そうだとすれば、この自然な動きの中で上手くやりすぎている。
どちらにせよ、この梶井堯には厄介なことだ。
先程10分は高くないと言っていたが、実際俺がこいつに支払っているのは1時間だ。これは全くといって安くない。1時間もあれば宿題の一つも終わるだろう。
「お前は、罪な奴だよ」
撫でながら言うと、そいつは俺の手に、柔らかなぷにぷにとした感触を与えた。ピンク色で柔らかい。軽く握るとその感覚から抜け出せなくなる。
ああ、その柔らかなピンク色が、どれだけ俺にとって恐ろしいものか、お前は知らないのだろう……。
その肉球、我を惑わす。
>Do you like pink?
私、パンチおみまいされたことあります。
何もしてないんだけどな……。
2015/5 秋桜空




