↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/70

第4話 領主さまの娘を、雑草のお茶で救いました

馬車に揺られること、半刻。

僕とハンナさんは、丘の上の大きな屋敷にたどり着いた。

「ケン、いいかい。お屋敷では、おまえさんは私の助手だ。余計なことは、言うんじゃないよ」

「はい、ばあちゃん」

「それから、月光草のことは、私の家に代々伝わる秘薬ということにしておく。いいね?」

僕は、こくりとうなずいた。

(ばあちゃん、僕を守ってくれてるんだ)

* * *

通された部屋は、広くて、ひんやりとしていた。

天蓋つきの大きなベッドに、小さな女の子が横たわっている。

金色の髪。真っ赤な顔。苦しそうな、浅い呼吸。

「娘のセシリアだ」

ベッドの横で、背の高い男の人が低い声で言った。領主のロルフ伯爵だという。目の下に、濃いくまができている。

「五日前から、熱が下がらない。王都の医者も、治癒魔法の使い手も、お手上げだった」

ハンナさんが、そっと少女の額に触れ、眉をひそめた。

「これは……魔力熱だね。体の中の魔力が暴れて、熱を出しているんだ。普通の解熱薬は効かない」

「では、どうすれば……」

「ひとつだけ、手がある」

ハンナさんが、僕を見て、小さくうなずいた。

* * *

屋敷の台所を借りて、僕は湯を沸かした。

鞄から、昨日摘んだ月光草を取り出す。

(……雑草鑑定)

【名称:月光草】

【使い方:魔力熱には、葉を五枚。ゆっくり煎じる】

(五枚……リナのときより多いんだ)

湯に葉を入れると、淡い光が鍋の中でふわりと広がった。甘くて爽やかな香りが、台所じゅうに満ちる。

「なんて、いい香り……」

通りかかったメイドさんが、うっとりと目を細めた。

* * *

「セシリア、これを飲んでごらん」

ハンナさんが、少女の体をそっと起こす。僕は木の杯を、小さな唇にあてた。

こくり。

一口飲んで、またひと口。

少女は、ゆっくりと、全部飲み干した。

……五分。十分。

部屋は、しんと静まり返っている。伯爵は、祈るように両手を組んでいた。

そして。

「……ん……」

少女の頬から、赤みが、すうっと引いていく。呼吸が、深く、穏やかになる。

ゆっくりと、青い瞳が開いた。

「……お父さま?」

「セシリア!」

伯爵は少女を抱きしめた。大きな肩が、小さく震えている。

「あのね、おいしいお茶を飲んだ夢を見たの。月みたいに、きらきら光ってた」

少女は、僕を見て、にっこりと笑った。

「あなたが、くれたの?」

「えっと……はい」

なんだか、照れくさい。

* * *

別室で、伯爵は深く頭を下げた。

「礼を言う。娘の命の恩人だ。褒美は明日、必ず用意しよう」

「と、とんでもないです」

「ところで、ハンナ」

伯爵の目が、すっと鋭くなった。

「あの薬草は、『月光草』ではないか? 百年前に絶えたと聞いていたが」

ハンナさんは、動じずに答えた。

「我が家に代々伝わる、秘薬でございます」

「……そうか」

伯爵は、それ以上、聞かなかった。ただ、静かに、僕を見つめていた。

その視線は、すべてを見透かしているようで、少しだけ怖かった。

帰りの馬車の中で、ハンナさんが小さくつぶやいた。

「あの伯爵は、きっと気づいているよ。……だが、悪い人じゃなさそうだ。しばらくは、様子を見よう」

僕は窓の外に目をやる。

夕焼けの空に、二つの青い月が、静かに浮かんでいた。

――第5話へ続く――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。