第3話 薬師のおばあさんに弟子入りしました
「その草を、どこで手に入れたんだい?」
ハンナさんの鋭い視線に、僕は嘘をつけなかった。
「……畑のあぜ道です。スキルで見つけました」
「スキル? ああ、昨日の儀式で『雑草鑑定』をもらったという、あの子かい」
ハンナさんは、ふん、と鼻を鳴らした。笑うでもなく、馬鹿にするでもなく。
「ついておいで。見せたいものがある」
* * *
ハンナさんの薬屋は、村はずれの古い木造の家だった。
棚いっぱいに並んだ瓶と、天井からぶら下がる乾燥した薬草。ふしぎな匂いが、鼻をくすぐる。
「ここに、薬草を十種類混ぜた籠がある。どれが何か、わかるかい?」
机の上に置かれた籠には、見た目がそっくりな草が山のように入っていた。
(……雑草鑑定)
心の中で唱えると、一本ずつ文字が浮かぶ。
「えっと、これは熱さまし草。こっちは毒消し草で、これは……毒草です。触っただけでかぶれます」
「……ほう」
「あと、これは魔力草。この小さい葉っぱは、咳止めの原料になります」
僕が全部答え終えると、ハンナさんは長い間、黙っていた。
やがて、ゆっくりと口を開く。
「全部、正解だよ。私が五十年かけて覚えたことを、おまえさんは一目で見分けた」
「え、えっと……」
「いいかい、ケン。月光草は、百年前に絶えたと言われている幻の薬草なんだ。もしそれが生えていると世に知れたら、貴族や商人が、おまえさんを放っておかないよ」
僕は、背中がひやりとした。
「だから、そのスキルのことは、私とおまえさんの家族以外、誰にも言うんじゃない」
「……はい」
「それで、だ」
ハンナさんは、にやりと笑った。
「うちの弟子にならないかい? 食事つき、薬の作り方も教えてやる。月光草を安全に使うには、正しい知識が要るからね」
* * *
その夜、家族会議が開かれた。
「弟子入り? ケンが、薬師の?」
父さんと兄さんたちは、目を丸くした。
母さんは、そっと僕の手を握った。
「リナを助けてくれた子だもの。ケンが、やりたいようにしなさい」
「……ありがとう、母さん」
胸の奥が、じんわりと温かくなる。前世では、こんなふうに誰かに背中を押してもらったことは、一度もなかった。
(今度こそ、ちゃんと生きてみよう)
* * *
翌朝から、薬屋での修行が始まった。
「まずは、薬草の洗い方からだよ」
「はい、師匠!」
「師匠じゃない。ばあちゃんでいい」
そんなやり取りをしていると、店の戸が、勢いよく開いた。
「ハンナさん! 大変です!」
息を切らして飛び込んできたのは、騎士の鎧を着た若い男だった。
「領主さまのお屋敷の、お嬢さまの熱が下がらないのです! どんな薬も効かなくて……!」
ハンナさんが、ちらりと僕を見た。
僕は、ごくりと唾をのんだ。
(領主さまの、娘……?)
――第4話へ続く――




