第2話 雑草のお茶で、妹の熱が下がりました
「ただいま」
家に帰ると、土間の奥から、かすれた咳の音が聞こえた。
「……ごほっ、ごほっ」
「リナ?」
藁のベッドで、妹のリナが赤い顔で丸くなっていた。八歳になったばかりの、僕の大事な妹だ。
「お兄ちゃん……おかえり……」
「寝てていいよ。熱は?」
額に手を当てると、びっくりするほど熱い。
「三日前からなの」
母さんが、濡れた布をしぼりながら言った。
「薬師のハンナさんに薬をもらえば治るんだけど……銀貨一枚もするのよ」
うちにとって銀貨一枚は、家族全員の十日分の食費だ。母さんは悔しそうに唇をかんだ。
(銀貨一枚……)
その瞬間、あのあぜ道の光景が頭をよぎる。
(あの草なら……!)
「母さん、ちょっと畑まで行ってくる!」
「えっ、ケン? 今から?」
僕は返事も聞かずに、家を飛び出した。
* * *
夕焼けの中、あぜ道に戻る。
青白い月光草は、さっきと同じ場所で、静かに揺れていた。
(お願い、効いてくれ)
もう一度、スキルを使う。
(……雑草鑑定)
【名称:月光草】
【使い方:葉を三枚、湯で煎じて飲ませる。高熱・咳・疲れに効く】
【注意:根は苦いので使わない】
(葉を、三枚……)
僕は慎重に葉を摘んだ。根を傷つけないように、ていねいに。
十枚ほど摘んだところで、ふと気づく。
(あれ? 摘んだところから、また小さな芽が出てる……?)
月光草は、摘んでも、すぐに生え変わるらしい。
(これ、本当にすごい草だぞ……)
* * *
台所で湯を沸かし、三枚の葉を入れる。
ほのかに、月のような淡い光が、鍋の中でゆらめいた。甘くて爽やかな香りが、家じゅうに広がっていく。
「いい匂い……」
リナが、うっすらと目を開けた。
「リナ、これ飲んでみて。苦くないから」
僕は木のコップを、そっと妹の口もとへ運んだ。
こくり、こくり。
リナはゆっくり飲み干すと、ほうっと息をついた。
「……おいしい。あったかい」
そして、そのまま、すうすうと寝息を立て始めた。
「ケン、これ……何を飲ませたの?」
母さんが不安そうに聞く。
「ただの、道ばたの草茶だよ。大丈夫」
……嘘ではない、はずだ。たぶん。
* * *
翌朝。
「お兄ちゃん、おなかすいた!」
元気な声で、僕は飛び起きた。
リナが、ベッドの上でぴょんぴょん跳ねている。熱は、すっかり下がっていた。咳も、もう出ない。
「リナ! 治ったの!?」
母さんが涙ぐんで、妹を抱きしめる。
「ケン、ありがとう。……でも、あの草茶、本当に何だったの?」
「えっと、スキルで見つけた草で……」
そのとき。
コン、コン。
入り口の戸が、静かに叩かれた。
「ごめんくださいな。ケンという子は、いるかい?」
戸を開けると、そこには、杖をついた白髪の老婆が立っていた。村でただ一人の薬師、ハンナさんだ。
ハンナさんは、僕をじっと見つめて言った。
「昨日の夜、おまえさんの家から、月の光みたいな匂いがしてね。……あれは、月光草の香りだ」
鋭い目が、僕を射抜く。
「その草を、どこで手に入れたんだい?」
僕は、ごくりと唾をのんだ。




