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第1話 「役立たず」と言われて死んだ僕は、雑草鑑定で目を覚ます



「また君か。この数字、一桁違うじゃないか」


深夜〇時のオフィスに、部長の溜め息が響いた。


「……申し訳ありません。すぐ直します」


僕、三十二歳の会社員・佐藤健二は、頭を下げた。三日連続の徹夜だった。目の奥がじんじんと痛い。


「まったく、君は本当に役立たずだな。同期はもう課長だぞ」


部長はそう言い残して帰っていった。


静まり返ったフロアで、僕は一人、パソコンの画面を見つめる。


(役立たず、か。……そうかもしれないな)


キーボードに手を伸ばした、そのとき。視界がぐらりと傾いた。


(あれ……? 床が、近い……)


冷たいカーペットの感触。遠のいていく蛍光灯の光。


(ああ、もう一回やり直せるなら、今度はのんびり、土でもいじって暮らしたいな……)


それが、僕の前世の最後の記憶だった。


* * *


「……ん、……ケン! ケン、起きなさい!」


誰かに肩を揺さぶられて、僕は目を開けた。


見慣れない木の天井。藁のにおい。そして、心配そうにのぞき込む、日に焼けた顔の女性。


「やっと起きた。今日は『スキルの儀』の日でしょう? 寝坊しちゃだめよ」


「……かあ、さん?」


口からこぼれた言葉に、自分で驚いた。この人を、僕は知っている。いや、「この体」が知っている。


ケン、十二歳。ミドリ村の貧しい農家の三男。


頭の中に、知らない記憶が流れ込んでくる。そして同時に、佐藤健二としての記憶も、はっきり残っていた。


(これ……もしかして、転生した、のか?)


窓の外には、見たこともない青い二つの月が、朝の空にうっすらと浮かんでいた。


* * *


村の小さな教会には、同い年の子どもたちが集まっていた。


十二歳になると、女神さまからスキルを授かる。それがこの世界の決まりらしい。


「次、ケン」


白いひげの神父さまに呼ばれて、僕は水晶玉の前に立った。手をかざすと、玉がふわりと緑色に光る。


神父さまが目を細め、読み上げる。


「ケンのスキルは……『雑草鑑定』」


一瞬の静寂。


そして、どっと笑い声が起きた。


「ざ、雑草だって!」


「農家の子にぴったりじゃん!」


「草でも食ってろよ、ケン!」


「静かに」と神父さまが言ったが、その顔にも、気の毒そうな苦笑いが浮かんでいた。


(……雑草鑑定。確かに、強そうには聞こえないな)


でも不思議と、悔しくはなかった。前世で「役立たず」と言われ続けた僕には、慣れた響きだったからだ。


* * *


その帰り道。僕はぼんやりと畑のあぜ道を歩いていた。


道ばたには、いつもの雑草がぽつぽつと生えている。


(せっかくもらったスキルだし、一回くらい使ってみるか)


足もとの、青白い小さな草に目をやり、心の中で唱えてみる。


(……雑草鑑定)


その瞬間。草の上に、半透明の文字が浮かび上がった。


【名称:月光草(げっこうそう)】


【品質:最上】


【効能:あらゆる病を癒やす万能薬の原料。市場価格、一株につき金貨十枚】


「…………え?」


僕は目をこすった。もう一度、見る。文字は消えない。


金貨十枚。それは、うちの家族が一年かけて稼ぐお金より多い。


その草は、あぜ道に、何十本も生えていた。


「これ、雑草じゃ……ないよな?」


見回すと、他の草にも次々と文字が浮かぶ。薬草、毒消し草、魔力草。


この世界の誰にも見えていない「宝の山」が、僕の目にだけ、はっきりと映っていた。


(今度こそ、のんびり暮らせるかもしれない)


僕は思わず、笑ってしまった。


――第2話へ続く――

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