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059⚫️十分な役回り
あれは、私が設計した船だったな。
よく仕上がっていた。あれならば大量の輸送が可能だ。
この大陸で容易に入手できる資材で補修できる設計にしたことも、
功を奏したのだろう。
公国の資材は確かに優秀だが、この地では手に入らぬ。
その点において、あの船は公国の最新鋭艦ほどの性能はない。
だが、それでよいのだ。
自らの手で持続可能であること。それこそが技術の本質である。
飢えた者に魚を与えるのでも、単に釣り方を教えるのでも足りぬ。
自ら竿を作る術を知ってこそ、知恵は生きて継承されるのだ。
私がしたのは、ほんの手助けに過ぎない。
’火の発明’にしてもそうだったのだろうな。
誰かが思いつき、誰かが受け継いだ。
今となっては、それが誰だったのかも分からぬ。
だが、名もなき者の苦心と工夫を’伝える者’がいたからこそ、今がある。
私は、その連鎖の一翼を担うことが、少しでもできればよいのだ。
私の役回りとしては十分すぎる。
今頃、公国では私たちが学んだ以上の知恵と、技術と、
そして倫理が磨かれていることだろう。 それは、それでよい。
また名もなき誰かが、そっとそれらを繋いでいってくれるのだからな。
ガルド・バルハインは独りごちると、静かに妻の墓前で祈りを捧げた。
風に揺れる草花の音が、彼の言葉を優しく包み込んでいった。




