表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私が書き終えた、大好きな悪役令嬢の話  作者: 夜凪 蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/57

第5話「アリエスが、好きだから」

告発のことを聞いてから、何日か経った。


正式な場での断罪はまだ先らしい。証人を集めて、場を整えて、貴族の作法に則って進められる。読んだ話の中ではもっと先のほうで起きていたから、まだ時間はあると思う。たぶん。


でも、城の中の空気が変わったのはわかる。


廊下ですれ違う人の目が違う。昨日まで頭を下げてきた侍女が、目を逸らすようになった。声をかけてくる人が減った。


アリエスの体は平気な顔をしている。背筋はまっすぐだし、歩く速度も変わらない。でも私の中はぜんぜん平気じゃない。


読んだ話の中で、このあとどうなるか、なんとなく覚えている。


たしか……ヴァネッサが証人を集めていた。一人ずつ声をかけて、「あの日のことを覚えていますか」「あなたは見ていましたよね」って。少しずつ、少しずつ、アリエスに不利な証言をする人を増やしていって。最終的にアリエスが大勢の前で告発される。アリエスがあの子を庇ったことが暴力だって言われて、それがすごく大きな問題になって——


でも、なんでそこまで大事になったのかはよく覚えていない。政治とか外交とか、そういう難しい話が絡んでいた気がするけど、読んでたときはそこはよく飛ばしていた。アリエスがどう感じているかのほうが気になって、そっちばかり読んでいたから。


わかっているのは、ヴァネッサが動いていて、止まらないということ。


昨日、廊下でヴァネッサが侍女の一人と話しているのを見た。アリエスの体はそのまま通り過ぎたけど、私の心臓はどくどくしていた。あの侍女、何を聞かれたんだろう。何を答えたんだろう。


知っているのに、止められない。


……ほんとに?


読んだ話の中のアリエスは、一人で抱えた。誰にも言わなかった。黙って断罪の日を迎えた。それがアリエスだった。


でも、私はアリエスじゃない。中身は違う。


物語を壊したくない。でも、このまま黙ってあの日が来るのを待つだけなのも——嫌だ。


何かできないかな。物語の流れを変えないまま、ほんの少しだけ。アリエスとしておかしくない範囲で、何か。


まだ何も思いつかない。でも、黙って待つだけは嫌だと思った。それだけは、はっきりしていた。


あの子のことが、ずっと気になっていた。


アリエスが庇った使用人の子。上の人間にひどいことをされていたのを、アリエスが止めた。でもそのせいで——読んだ話の中では、あの子は屋敷からいなくなった。庇ったことが騒ぎになって、あの子の立場が危うくなって、誰かに引き上げられたんだと思う。


アリエスはそのことを、何度も悔やんでいた。


もっと上手くできたはずだ、って。


何回もそこを読み返した。読むたびに苦しかった。アリエスは何も悪くないのに。悪くないのに、一人で抱えて、一人で消耗していく。


……なんでだろう。読んでるとき、いつもアリエスのことが心配だった。こんなに強いのに、誰にも頼らないから。


フィオナが「信じてます」って言ってくれたのに、アリエスの体はそれを受け取らない。ありがとうも言わない。一人で歩いていく。


夜の廊下は暗くて、燭台の火が揺れるたびに壁の影が動く。石の床は冷たくて、自分の足音だけが響いている。


その先に、明かりがあった。


窓際に誰かが立っている。銀灰色の髪。


アルヴァンだった。


足が止まった。前に中庭で目が合ったときの、あの感じを思い出す。見透かされるような目。


アルヴァンは振り返らなかった。窓の外を見ている。月明かりが横顔を照らしていて、表情は読めない。


何も言わないまま、しばらくそこにいた。


私は別の廊下を選んで、歩き出した。背中に視線を感じた気がしたけど、振り返らなかった。


次話:「アリエスはまだ、ここにいる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ