第4話「あの子と、同じ」
フィオナが、申し訳なさそうな顔でやってきた。
隠すより話したほうがいいと思ったんだろう。少し迷ってから、口を開いた。
「アリエス様が、使用人の女の子を……その、傷つけたと」
「知ってる」
言ってから、しまった、と思った。
「……廊下で話しているのが、聞こえていた」
フィオナが「そうなんですか」とほっとしたような、でも心配そうな顔をした。
窓の外を見た。中庭の木が風に揺れていた。
読んだ。この話、読んだことがある。
あの使用人の女の子は、上の人間から理不尽なことをされていた。誰にも見えないところで。アリエスだけがそれに気づいて、庇った。でも庇い方が激しくて——それをヴァネッサに見られた。
アリエスが一方的に暴力を振るったという話に、すり替えられた。
守ろうとしたことが、傷つけたことにされている。
胸の奥がじわっと熱くなった。手がきゅっと握られている。自分で握ったのか、アリエスの体が反応したのかわからない。
誰にも見えないところで、理不尽なことをされていた。
……あの子と、同じだ。
「アリエス様」
フィオナが私の顔をのぞきこんでいた。
「怒ってますか」
口が動いた。
「……怒っていない」
少し間を置いて、もう一度。
「ただ、面倒だと思っている」
自分で言ったのか、アリエスが言ったのか。たぶん両方だった。怒っているのに怒っていないと言うしかないこの感じは、私も知ってる。
フィオナはしばらく私の顔を見ていた。それから静かに言った。
「私は信じてますから」
根拠を聞いてこなかった。説明しなくていいの、と聞き返すこともなかった。当たり前みたいにそれだけを言って、笑った。
(なんでこの子は、こうなんだろう)
告発された人間のそばにいるのに。みんながアリエスを避け始めてもおかしくないのに。
わからない。でも、フィオナの声を聞いていたら、手の力がすこしだけ緩んだ。
次話:「アリエスが、好きだから」




