表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私が書き終えた、大好きな悪役令嬢の話  作者: 夜凪 蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/57

第2話「余計なことを、と言いながら」

目が覚めると、体の下がやわらかかった。


(……ベッド?)


見上げると天蓋があって、カーテンの隙間から白い光が差している。分厚いマットレスの上に寝ていた。昨日のこと、夢じゃなかった。


侍女が来て、顔を洗ってくれて、ドレスを着せてくれた。されるがまま立っていると、体が勝手に腕を上げたり首を傾けたりする。着替え慣れているこの動きは私のじゃない。アリエスのだ。鏡に映った顔も、やっぱり私じゃなかった。


侍女が髪を整えてくれているとき、留め具が滑って床に落ちた。侍女が「申し訳ございません」と慌ててしゃがんだ。声が震えていた。怒られると思ったんだろう。


留め具を拾った侍女の手が目に入った。指が赤くなっている。朝早くから湯を沸かしたり、布を絞ったりしているんだと思う。


手が動いていた。私の手が。侍女の指先に、そっと触れた。


侍女が固まった。


「……苦労をかける」


口はアリエスの声だった。でもやったのは私だ。あの部屋で自分の手が荒れていたのを覚えている。冬は霜焼けで指が割れて、水に触るたびに痛かった。誰にも気づかれなかった。


侍女が目を丸くしていた。怒られると思ったのに、手を触られて、労われた。何が起きたかわかっていない顔だった。


食堂に向かう体が道を知っていて、考えなくても足が進んだ。フィオナが先に来ていて手を振っている。


「おはようございます、アリエス様!」


「……おはよう」


声が勝手に出てくる。短く、でも邪険じゃない言い方はアリエスそのものだ。


席に着くと、テーブルに食事が並んでいた。パンにスープ、果物に卵料理。湯気が立っている。


……なんだろう。胸のあたりがぎゅっとなる。


ごはんがある。私の前に、ごはんが並んでる。


スプーンを持とうとして手が止まった。テーブルの向こうに、銀色の髪を短く切りそろえた男の人が座っていて、こちらを見ずに自分の朝食を音もなく食べている。


知ってる。ライナス。何回も読んだ、いつもアリエスの近くにいてほとんどしゃべらない人。


「ライナスさん、今日も早いですね」とフィオナが話しかけた。ライナスは一度だけ視線を上げて、また戻した。


フィオナが苦笑する。「相変わらず」


スープを飲んだ。お腹の奥まで、じんわり染みていく。


食事が半分くらい終わったころ、ライナスが席を立った。厨房のほうへ行って戻ってくると、何も言わずに私の前に皿を一枚置いた。


焼いた白身魚。


「……なに」


思わず声が出た。ライナスは席に戻りながら、前を向いたまま言う。


「食が細い」


それだけ。


フィオナが「わあ」と声を上げた。「ライナスさんから料理を出されるの、初めて見ました」


魚を見る。この人、見てたんだ。私がどれくらい食べてるか。


……なんで。


「……余計なことを」


口が勝手にそう言った。アリエスの声で、アリエスの言い方で。


ライナスは何も返さない。


でも魚は、そこにある。温かい。私はそれを、全部食べた。


次話:「目が笑っていない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ