第28話「気になる」
断罪の翌朝。
食堂に行った。席に着いた。パンとスープと卵料理。ライナスが厨房に行って戻ってきて、黙って一皿置いた。今日は薄切りの果物だった。
フィオナが「おはようございます」と声をかけて、私の隣に座った。アルヴァンが遠くの席にいた。
何も変わっていない朝だった。断罪が終わっても、食堂は同じだった。テーブルの上のスープの色も、パンの焼き加減も、ライナスの無言の一皿も。
(終わったんだ)
スープを一口飲んだ。温かかった。舌にかぼちゃの甘さが残る。
「昨日、眠れましたか」とフィオナが聞いた。
「……眠れた」
本当だった。昨夜は、布団に入ったら目を閉じる前に意識が落ちた。
フィオナが「よかったです」と言った。声に安堵がにじんでいる。
食べ終えて、食堂を出た。廊下を歩いていたら、角を曲がったところにアルヴァンがいた。壁にもたれて腕を組んでいる。待っていたのか、偶然か、わからない。
「食事は取れているか」
また聞かれた。何回目だろう。
「……食えている」
「そうか」
いつも通りで終わるはずだった。でもアルヴァンが歩き出さない。革靴の踵が床を叩いて、止まった。
「……昨日の件」
「……何だ」
「うまくやったな」
「……そうでもない」
言ってから、少し考えた。
「……エルナさんが来てくれなかったら、どうにもならなかった。アルヴァンが声を上げてくれなかったら、審議は続いていた。私は——何もしていません」
アルヴァンが振り返った。目の色が、ほんの少し変わった。眉が微かに動く。小さな変化だったけれど、見えた。
「誰かの助けを受け取れるのも、力だろう」
「……」
「お前は、黙ったまま大広間に立ち続けた。それができる人間は、少ない」
言い終えて、また歩き始める。
「アルヴァン」
「なんだ」
「……なぜ、いつも声をかけてくる」
アルヴァンは振り返らなかった。廊下の先を見たまま、少し間があった。
「……気になるから」
ひと言残して、廊下の角を曲がった。革靴の音が遠くなる。
私は一人、廊下の光の中にいた。
(気になる)
その言葉が、頭の中に残った。
真白さんの小説に、アルヴァンの内面は書かれていなかった。何を考えているのかわからない人だった。でも今——「気になるから」と言った。ただ、見ているだけの人じゃなかった。
見ていて、声をかけて、大広間では立ち上がって。
(この人のことも、私は名前しか知らない)
小説に書いてあった情報。王太子の異母弟。王位継承に興味がない。それだけ。
でもここにいる人は、それだけじゃない。
廊下を歩いた。窓から風が入ってきて、首筋をなでた。
次話:「怒っていい」




