第24話「また朝」
審議の再開まで数日あった。
翌朝、食堂に行った。体が勝手に向かう。毎朝同じ時間に、同じ廊下を通って、同じ席に座る。アリエスの足が知っている道だった。
扉を開けたら、湯気が顔に当たった。パンの焼ける匂いがする。
フィオナがいた。ライナスがいた。遠くにアルヴァンがいた。
「おはようございます、アリエス様」
「……おはよう」
フィオナの声が、いつもと同じだった。昨日あんなに不安そうにしていたのに、朝になったら笑っている。
席に着いた。パンとスープと卵料理。スープはかぼちゃのポタージュで、淡い黄色をしていた。
スプーンを持って、すくって、口に運ぼうとして——入らなかった。
喉の手前で、何かが閉まっている。お腹は空いているはずなのに、体が受けつけない。スプーンを、そっと皿に戻した。
「アリエス様?」
フィオナがこちらを見ていた。
「……少し、眠れなかっただけだ」
ライナスが何も言わずに席を立った。厨房へ行って、戻ってくる。置かれたのは、いつもの一皿じゃなかった。白い器に、澄んだ薄いスープ。湯気がまっすぐ立っている。
「……これなら」
ライナスは何も言わない。でも、そういうことだった。食べられない朝には、食べられるものを。
一口飲んだ。塩味が薄くて、温かさだけが喉を通っていった。二口目も、入った。
でも——ヴァネッサは動いている。残りの証人5名は、まだヴァネッサの側にいる。王家は自分たちの責任を隠したくて、アリエスを切り捨てるほうが楽だと考えている。エルナは身分を明かすと言った。明かせば外交問題になる。でもアリエスに罪を着せるよりは正しい形で問題にしたほうがいいと。
(怖いことが目の前にあるのに)
スープが温かい。
その二つが、同時に存在している。怖いことと、温かいスープが。
「アリエス様、無理しないでくださいね」
「……ああ」
フィオナが自分のパンを少しちぎって、私の皿の端にそっと置いた。「食べられたら、で」
(ここにいたい)
思ってから、胸が痛い。ここにいたいから怖い。いたくなければ、断罪なんて怖くない。消えるだけだから。
アルヴァンが遠くの席から、こちらを一瞬見た。目が合って、何も言わず前を向いた。昨日、大広間で声を上げてくれたことを、何か言うべきかもしれなかった。でもアルヴァンの横顔は「別にいい」と言っているような気がした。
食堂を出た。
「フィオナ」
「はい?」
「……しばらく、何もできないかもしれない」
「いいですよ。一緒にいます」
簡単に言った。当たり前みたいに。
ライナスの足音が、半歩後ろで続いている。
次話:「白紙に文字」




